夏に入り、2人で曲を作ることになった。正確には、3年前に2人で作りかけていた曲をもう一度起こして、グループで歌えるものに再編するのだ。
曲名は『暁光より』。ピアノとギターが伴奏のバラードだ。
いつだったか、まだ2人が割り切った関係だった頃。朝、ふと目が覚めた時に2人で朝焼けを見たノリで作った曲だった。その直後に2人とも大きな仕事が決まって、それ以来手を付けていなかった。
朝から舞台の座長を務める郁斗を東京駅まで2人で見送った後、そのまま神田の家に向かった。曲作りをするために。
神田は、家族以外をこの家に入れるのは仲森が初めてだった。
「きれーだな!これなんだ?すげえ置物」
「引っ越したばかりだからな。それは——」
最低限の家具しか置かない仲森にとって珍しいのだろう。ギターを背負ったまま部屋のあちこちを、初めて遊園地に来た少年のように見て回る仲森に、神田は一抹の寂しさを覚えていた。
よりを戻したあの日、朝からの撮影で疲れていた2人はそのまま何事もなく眠ってしまった。それから休みが合わず、2人きりで会うのはそれ以来のことだった。
今日ここに呼んだ理由の曲作りは、あくまで口実だ。その気になれば事務所の会議室を借りてすることだってできる。2人とも分かっていて、言わなかった。
仲森が、背負っていたギターを降ろしたのを、神田は見逃さない。
「これおもしれー、な……」
仲森の背後から手を回し、筋肉質な腰を引き寄せて背中に顔を埋めた。いつもつけている彼の香水の爽やかな香りが心地よい。
「なあ……」
——ああ、らしくねえ……
もっと格好つけてやりたいのに、仲森の前では上手くできない。
「んー?ほんとーにお前は……」
いとも簡単に神田の腕は解かれ、仲森の親指で頬をスリスリと撫でられる。それが心を和らげて、もどかしい。
視線を合わせると、甘さを孕んだ仲森の瞳の中に自分の姿を捉えた。目を合わせるのには勇気がいるのに、一度合わせると離せなくなる。
だから、目を閉じた。
すると即座に唇に柔らかい感触が降ってくる。その感触が気持ち良くて、仲森の上着を掴む。もっと、とねだるように。
「好きだ、侑真。大好き」
「お、れも……すき」
角度を変えて啄まれ、小さく開いた隙間から差し入れられた舌と絡みあっていると、ふいに動きが止まった。
「あのさ……」
——?
気まずそうに視線を逸らした仲森の視線は部屋中を彷徨い、神田の元へ戻ってきた。
「……寝室、どこ?」
「あ。……別に、ここでも」
「お前が痛い思いすんのは、やだ」
——へえ……
断固として自分を大切にする姿勢に、柄にもなく浮かれた神田は部屋を案内する羽目になった。
曲名は『暁光より』。ピアノとギターが伴奏のバラードだ。
いつだったか、まだ2人が割り切った関係だった頃。朝、ふと目が覚めた時に2人で朝焼けを見たノリで作った曲だった。その直後に2人とも大きな仕事が決まって、それ以来手を付けていなかった。
朝から舞台の座長を務める郁斗を東京駅まで2人で見送った後、そのまま神田の家に向かった。曲作りをするために。
神田は、家族以外をこの家に入れるのは仲森が初めてだった。
「きれーだな!これなんだ?すげえ置物」
「引っ越したばかりだからな。それは——」
最低限の家具しか置かない仲森にとって珍しいのだろう。ギターを背負ったまま部屋のあちこちを、初めて遊園地に来た少年のように見て回る仲森に、神田は一抹の寂しさを覚えていた。
よりを戻したあの日、朝からの撮影で疲れていた2人はそのまま何事もなく眠ってしまった。それから休みが合わず、2人きりで会うのはそれ以来のことだった。
今日ここに呼んだ理由の曲作りは、あくまで口実だ。その気になれば事務所の会議室を借りてすることだってできる。2人とも分かっていて、言わなかった。
仲森が、背負っていたギターを降ろしたのを、神田は見逃さない。
「これおもしれー、な……」
仲森の背後から手を回し、筋肉質な腰を引き寄せて背中に顔を埋めた。いつもつけている彼の香水の爽やかな香りが心地よい。
「なあ……」
——ああ、らしくねえ……
もっと格好つけてやりたいのに、仲森の前では上手くできない。
「んー?ほんとーにお前は……」
いとも簡単に神田の腕は解かれ、仲森の親指で頬をスリスリと撫でられる。それが心を和らげて、もどかしい。
視線を合わせると、甘さを孕んだ仲森の瞳の中に自分の姿を捉えた。目を合わせるのには勇気がいるのに、一度合わせると離せなくなる。
だから、目を閉じた。
すると即座に唇に柔らかい感触が降ってくる。その感触が気持ち良くて、仲森の上着を掴む。もっと、とねだるように。
「好きだ、侑真。大好き」
「お、れも……すき」
角度を変えて啄まれ、小さく開いた隙間から差し入れられた舌と絡みあっていると、ふいに動きが止まった。
「あのさ……」
——?
気まずそうに視線を逸らした仲森の視線は部屋中を彷徨い、神田の元へ戻ってきた。
「……寝室、どこ?」
「あ。……別に、ここでも」
「お前が痛い思いすんのは、やだ」
——へえ……
断固として自分を大切にする姿勢に、柄にもなく浮かれた神田は部屋を案内する羽目になった。