2人の間にあった1つの関係が終わっても、仲森は何一つ変わらなかった。相変わらず力は強いし、年下と仲良くしても楽しそうに笑っている。
——その癖、俺の真意は全て見抜いていやがる
 それは神田も同じことだった。仲森はできるだけ良きリーダー、頼れるリーダーになろうと奮闘していることはすぐ分かった。
 けれど、自分には頼ってこない。
 神田はそれが無性に腹立たしかった。リーダーに推薦したのは俺なのに、と。
 イライラが募った挙句、いつもなら話し合いでどうにか出来ていた無用な諍いを生み出して年下に気を遣わせる事態にしてしまった。今は自分がしっかりしないといけない時なのに。
——なんも上手くいかねえ……
 ライブツアーの話し合いの最中に仲森と言い争いをして、会議室に2人きりにさせられた。空気が余りにも険悪になりすぎて、神田は困り、結局年下3人の中では交流のある西園寺を呼び戻した。
「どうしたのさ2人とも。最後の曲はダンスナンバーで賢くんの希望曲はアンコールにするとか、普通に話し合えば決められたでしょ。最近仲良かったんじゃないの」
 諍いをすぐに収めた西園寺が、呆れたように言う。
「俺だってちゃんとしてえけど。なんか……」
 言い淀んだ仲森に、神田は苛立つ。まるで自分を見ているように思えた。
「イラつくんだろ」
「ちょっと、侑」
 西園寺が神田を窘めるが、仲森は微笑を浮かべ首を振った。
「いいんだ。その通りなんだから」
 そうだ。俺らは元々そういう関係性だったのだ。
 そう思い込もうとしても、以前は感じなかった胸が締め付けられるような痛みを神田は無視できない。何かで誤魔化すしかない。
「2人、呼び戻すか」
「いや」
 会議室の扉を半開きにして外を覗いた西園寺が、手を立てて制止する。
「今はお邪魔できないでしょ」
 そっと手招きする西園寺に誘われ、外を覗くと郁斗が歩の頭を撫でていた。双子売りしている最年少2人は、どうにも距離が近い。今の年長2人とは正反対である。
「なんか、毛繕いするサルみてえだな!」
「犬とか猫とか、もっと可愛い言い換えできねえ?郁斗拗ねるぞ」
 神田がツッコミを入れると、仲森と目が合う。一瞬の間を置いて、2人のあいだに大爆笑の渦が巻きあがった。
——これでいい
 仲間として、彼のシンメとして近くにいられれば良い。そういう関係性の持ち方だってある。神田はそういう未来も魅力的に思えた。