『SN―SKY』結成を知らされたその日の夜遅く、仕事を終えた神田は仲森の家に呼ばれた。幾度となく使った仲森の家の合鍵を使って部屋に入ると、仲森は真剣な面持ちで神田を見た。
 嫌な予感がした。
「こうやって会うのは終わりにしよう」
 メンバーへの迷惑やデビューのためを考えて言ったと、頭の良い神田はよく分かっていた。
 2人のコンビネーションは完璧だった。しかしデビューするアイドルグループとして完成ではなかった。完璧が故に新鮮味も、伸びしろも不透明だったのだ。端的に言えば、将来性がない。頭打ち。
 ボーイズグループが乱立する現代、アイドルはデビューがゴールではない。長きにわたって人々に笑顔を届ける仕事なのだ。現時点だけでなくより遠くの未来まで通用する可能性がない限り、デビューはできない。
 2人だけの世界の心地よさの一方で、2人はその現実を分かっていた。
 仲間を増やすなら、センターが必要だった。2人のどちらかがセンターをするとバランスが悪い。そして2人の新しいイメージを引き出せるような人材も。もちろん、仲森と神田の影響を良く受け取れる柔軟な仲間が。
 そんな仲間が今、奇跡的に集まっている。西園寺は唯一無二のセンターに、郁斗と歩はグループの起爆剤になる。彼ら自身が爆薬になることもあれば、彼らによって、仲森たちの秘めた爆薬に火をつけることができるだろう。
 最強の2人にグループのセンターを担うであろう西園寺と、未知数の郁斗と歩がメンバーの『SN-SKY』。
 「きっと上手くいく」。2人はそう確信していた。だからこそみんなへの迷惑はかけられない。
 真面目な仲森はきっと、リーダーになると同時にこの関係をやめようと思ったのだろう。それら全て分かった上で、神田は柄にもなく傷ついた。「俺のことは遊びだったのか」と。
 それが、仲森に対する想いに気づいた瞬間だった。
——どうして今なんだ
 触れ合っている時にだけ仲森から発せられる「好き」の言葉に神田が応えたことは一度もなかった。自分からそんなことを言うのは照れ臭かった。神田はその時になって激しく後悔した。