想いに気づくのと同時に、失恋した。
何事も、まちがいを犯しやすい人たちというものがいる。仲森と神田である。いくらグループで頼もしい兄貴分の2人であっても、21歳と20歳だ。神田はもちろん、仲森も世間では大学生の歳である。
1クラス30人程度の教室から解放された、大学生。何事においても、こと恋愛に至っては、1番生々しい様相を見せる頃だ。
テレビに出る身分で、かつスキャンダルが命取りとなる環境は、高校以上に窮屈で狭いが、2人は体温だけでなくその脈の一拍まで分かる距離にいた。
神田が仲森と出会った時、研修生グループを脱退した直後だった。身に覚えのないことで中傷され、見限られた彼は全方位に向かって威嚇状態だった。
仲森は元々、真っ直ぐな性格で、真面目。それゆえか、思っていることが顔に出やすい。多くの研修生に慕われていたが、威嚇状態になった彼に寄りつく者はいなくなった。
その頃寄り付きにくい研修生がもう1人いた。事務所に入ったばかりの神田である。今でこそ慕う者も多い神田だが、その頃の彼の異質さは敬遠される要素でしかなかった。孤立した余り者同士をくっつけておけば都合が良かったのか、仲森と神田は共に仕事をすることが多くなった。
最初のうちは喧嘩ばかりしていた。王道と、異質。正反対の2人は互いのことがてんで理解できなかったし、どうしようもなくイライラした。仲森にとっては異質で反抗的でやんちゃな神田が鼻につくし、神田にとって仲森は真面目すぎて鬱陶しかった。
歩み寄ったのは、威嚇状態からどうにか抜け出した仲森からだった。
「なあ。これ聞いてくんね」
雑誌仕事の休憩時間。楽屋の大机の対角線上に座っていた仲森が、スマートフォンとヘッドホンを渡してきた。
「何、これ」
「俺の歌。感想聞かせて」
「……なんで俺が」
「お前しかいないだろ」
——それはどういう意味で?
とは聞けなかった。けれど神田はあえて自分が選ばれたことが嬉しかった。
再生ボタンを押すと、今まで知らなかった仲森賢矢が流れ込んできた。ありていに言えば『心を撫でる歌声』だった。神田は、今にも溶けそうな歌声の虜になった。
素直になれない性格の神田は、たどたどしく褒めた。「良いんじゃねえの」とか「お前って実は繊細なん」とか。ぶっきらぼうにもほどがある感想でも、仲森は顔に皺を寄せて喜んだ。そんな仲森を見て、神田も笑顔が零れた。
神田へ歌を聴かせることを仲森に提案したのは西園寺だと、神田が知るのはもう少し先の出来事である。
何事も、まちがいを犯しやすい人たちというものがいる。仲森と神田である。いくらグループで頼もしい兄貴分の2人であっても、21歳と20歳だ。神田はもちろん、仲森も世間では大学生の歳である。
1クラス30人程度の教室から解放された、大学生。何事においても、こと恋愛に至っては、1番生々しい様相を見せる頃だ。
テレビに出る身分で、かつスキャンダルが命取りとなる環境は、高校以上に窮屈で狭いが、2人は体温だけでなくその脈の一拍まで分かる距離にいた。
神田が仲森と出会った時、研修生グループを脱退した直後だった。身に覚えのないことで中傷され、見限られた彼は全方位に向かって威嚇状態だった。
仲森は元々、真っ直ぐな性格で、真面目。それゆえか、思っていることが顔に出やすい。多くの研修生に慕われていたが、威嚇状態になった彼に寄りつく者はいなくなった。
その頃寄り付きにくい研修生がもう1人いた。事務所に入ったばかりの神田である。今でこそ慕う者も多い神田だが、その頃の彼の異質さは敬遠される要素でしかなかった。孤立した余り者同士をくっつけておけば都合が良かったのか、仲森と神田は共に仕事をすることが多くなった。
最初のうちは喧嘩ばかりしていた。王道と、異質。正反対の2人は互いのことがてんで理解できなかったし、どうしようもなくイライラした。仲森にとっては異質で反抗的でやんちゃな神田が鼻につくし、神田にとって仲森は真面目すぎて鬱陶しかった。
歩み寄ったのは、威嚇状態からどうにか抜け出した仲森からだった。
「なあ。これ聞いてくんね」
雑誌仕事の休憩時間。楽屋の大机の対角線上に座っていた仲森が、スマートフォンとヘッドホンを渡してきた。
「何、これ」
「俺の歌。感想聞かせて」
「……なんで俺が」
「お前しかいないだろ」
——それはどういう意味で?
とは聞けなかった。けれど神田はあえて自分が選ばれたことが嬉しかった。
再生ボタンを押すと、今まで知らなかった仲森賢矢が流れ込んできた。ありていに言えば『心を撫でる歌声』だった。神田は、今にも溶けそうな歌声の虜になった。
素直になれない性格の神田は、たどたどしく褒めた。「良いんじゃねえの」とか「お前って実は繊細なん」とか。ぶっきらぼうにもほどがある感想でも、仲森は顔に皺を寄せて喜んだ。そんな仲森を見て、神田も笑顔が零れた。
神田へ歌を聴かせることを仲森に提案したのは西園寺だと、神田が知るのはもう少し先の出来事である。