翌日の公演から、「満員御禮」の看板が立つようになった。スタッフによれば、当日券の販売列がこれまでより長くなったそうだ。メンバーの力に頼った結果になるのは悔しいが、これもグループを組んだことで見えた世界だと思うと、悪くなかった。
 歩は、未だ来ていない。明日は千穐楽だというのに。郁斗は公演後、共演者やスタッフとの夕食から帰るとベッドに倒れ込んだ。
 共有されているスケジュール表を見れば、あれから歩のスケジュールは余裕があった。あの年上3人が来れているということは、来られないことはないのだ。
 都度メンバーと会うことで寂しさは解消されていたが、それでも歩でなければ埋まらない穴があった。自分から「いつ来るの」と聞けたら良かったが、それも気が引けた。
——もしかして、知らない内に来てたとか……
 公演期間中なのでSNSを見ていないので、歩の目撃情報も見れていない。その可能性はある。
「でも楽屋来るはずじゃ。……歩のことだからそのまま帰っていてもおかしくは、ないか」
ベッドの上をのたうち回っていると、スマートフォンが震えた。確認すると、歩かから「明日行くねー」とだけメッセージが来ていた。
「は!?」
 混乱と高揚で、郁斗は思わずスマートフォンを投げ飛ばしてしまった。
——ホント、何考えてんのこの子……?
 その後30分、返信内容を考えに考え、悩みに悩んで「おっけー」とだけ返した。そのメッセージの短さと心労の釣り合わなさに、思わず笑いがこみ上げてきた。