グループでの雑誌撮影日。全員のショットは撮り終え、今は最後の歩のソロショットが終わるのを待っている。撮影スタジオの隅にある休憩スペースで、歩の様子を見守っていた。
 もう着替えに行っても良いのだが、皆なんとなく歩の撮影が終わるまで待っていた。最初と比べれば劇的な仲の良さである。
 これは演出家からの宿題をするチャンスだと思った。
「——で、みんなは恋愛が何か分かる?」
 マネージャーがヒヤヒヤとした目で自分たちを見ているが気にしない。
 みんなの反応は予想と少し違った。
 何故か、仲森と神田は怖い顔をしているし、そんな様子を見て西園寺は大爆笑している。これぐらいの年齢の男ならもう少し、楽しい盛り上がりを見せるものじゃないのか。
「はははっどうしたの、郁斗。思春期?」
「違う。舞台のことで」
「ああ、そういうことか。そういうのは賢くんでしょ?」
 「演技のことなんだし」と、急に話を振られた仲森は周りを気にしながらもアレコレと思案する。
「ああ……うん。えっと、その人を思うと胸が痛くなったりとか。愛しいと思うのに、上手くできなくてイライラしたりとか。そういう……」
 段々と尻すぼみになっていく仲森の言葉には珍しく力がない。
「侑は?」
「はっ、知るかよ」
 神田は机に置かれた飴を口に入れ、舐めずにガリガリと嚙み砕き始めた。仲森と喧嘩している訳ではないのに、すこぶる機嫌が悪い。
 しかし、そこで怯む郁斗ではない。
「『頼れ』って言ったのは侑真くんでしょ?」
「……。所詮そんなものはフィクションの中の話なんじゃねえの。気持ちがなくたって恋愛ごっこはできるしな」
「おい、神田!」
 仲森が声を荒げて侑真を睨む。それを受けて神田はニヤリと笑った。
「なんだよ。心当たりでもあるのか?」
「いや……」
「ほらな」
 神田は不機嫌をさらに強めてスタジオを出て行き、それを慌てて仲森が追いかけていった。
 2人の険悪な雰囲気は、なんだか触れてはいけない気がした。
「あっ」
 西園寺はふと、郁斗の後ろに視線をやった。
「歩はどう思う?恋愛が何かって」
「え」
 振り返ると、いつの間にか撮影を終えた歩がネクタイを緩め、先ほどまで仲森が座っていた椅子に座った。
 せっかく歩がいない時に聞いたのに。推しの恋愛事情なんて知りたくないものじゃないか。
「恋愛?……そんなの、好きで好きでどうしようもない気持ちじゃないの?」
 どこか遠くを見ながらそう言った歩は、これまでよりも大人びて見えた。郁斗の心にひびが入る音がした。
 「好きで好きでどうしようもない気持ち」。歩はそんな気持ちになったことがあるのだろうか。もしかしたら現在進行形かもしれない。
——聞きたくなかった。そんなの。……だから、なんで?