学校が終わり事務所へ着くと、西園寺が休憩スペースに座ってコーヒーを飲んでいた。3年生は自由登校期間で、学校に用のない西園寺は既に来ていたようだ。
西園寺は大学受験を諦めた。「2年以内って決められたら、本気でやるしかないな」と笑っていた。1週間後には共通テストがある。順当に人生を進んで行く同級生を見て、彼は何を思うのだろうか。
「翔太ー、お疲れー」
郁斗たちに気づいた西園寺は、片手を挙げた。
「お疲れさん。大変だな、2人も」
「ココにいるってことは、まさか2人また……」
前日に喧嘩はまずい。そんな俺の心の内を読んだのか、西園寺は笑って手を振った。
「いやいや、至って平和だ。ほら」
西園寺が傍にある会議室の扉を半分開けて見せた。2人は机に置かれた資料を見て何やら真剣そうに話していた。
「——じゃあここの立ち位置は入れ替えるか」
「ああ。で、次の曲は——」
あの2人は雰囲気が悪くなればとことん悪くなるが、向いている方向さえ同じになれば、なんでも2倍以上の力を発揮する。
それでも、演出・構成は郁斗の担当でもあった。
「お疲れー!構成の話なら、俺も混ぜてくれない~?」
郁斗は扉を全て開け放って話に入っていった。
「郁斗もっと早く来いよ~待ちくたびれて仲森が入ってくる羽目になったじゃねえか」
「おい、神田?」
「ちょっと、侑は余計なこと言うなって。賢くんもいちいち聞かないで」
仲森くんと侑真くんの小競り合いを西園寺が諫め、歩がそれをニコニコと見守っている。
『SN―SKY』はこれまでで一番良い雰囲気だった。
話し合いは弾み、ふと窓の外を見ると、もう夕陽が沈みかけていた。
「——じゃ、詰める所はこれで終わりだな。明日また会場で確認……8時入りだっけ?」
仲森がスマホを確認し、郁斗と神田は広げた資料を片付ける。
「うん、8時入りだな。みんな、明日は——」
「よっしゃー!!」
仲森がリーダーらしいことを言おうとしたその瞬間、隣の会議室から大きな歓声が聞こえてきた。声からして研修生たちだろうか。その声は会議室を出て、郁斗たちがいる会議室のすぐ外にまで派生していった。
——何?
「ちょっと俺、見てくるね」
席を立ち、ドアに手を掛ける。
「……っやめとけ、郁斗」
「え?」
神田の声に振り返ると、仲森くんの顔は血の気が引き、目は虚ろだ。そんな仲森の背中を神田はドンッと強く叩く。
「やったー!デビューだー!!」
すぐそばの廊下から聞こえてきた声に、頭が思考を止めた。
——…………デビュー?
「クソッ!」
仲森のその声は小さくとも、大きな激情を孕んでいた。
彼らが去った後、神田は持っていた資料をクシャリと掴み、西園寺も頭を抱えていた。歩も、悔しそうな表情を滲ませている。
「みんな、明日は切り替えていくぞ。ファンはこっち側の事情なんか知らないんだからな」
神田はそう言い、「こいつは俺が引き取る」と仲森を連れて出て行った。
仲森も神田もずっと東京にいて、自分の周りにいた研修生がデビューしていくのを人一倍見ていたから、察しが速かったのだろう。
廊下で嬉々として叫んでいた研修生は郁斗と同学年の後輩で、仲森がかつて所属し、脱退したグループだった。
ふと窓の外を見ると、夕陽がビル群の隙間を抜けている。
いつも何気なく見ていた日の入りが、まるで世界の終わりかのように見えた。
西園寺は大学受験を諦めた。「2年以内って決められたら、本気でやるしかないな」と笑っていた。1週間後には共通テストがある。順当に人生を進んで行く同級生を見て、彼は何を思うのだろうか。
「翔太ー、お疲れー」
郁斗たちに気づいた西園寺は、片手を挙げた。
「お疲れさん。大変だな、2人も」
「ココにいるってことは、まさか2人また……」
前日に喧嘩はまずい。そんな俺の心の内を読んだのか、西園寺は笑って手を振った。
「いやいや、至って平和だ。ほら」
西園寺が傍にある会議室の扉を半分開けて見せた。2人は机に置かれた資料を見て何やら真剣そうに話していた。
「——じゃあここの立ち位置は入れ替えるか」
「ああ。で、次の曲は——」
あの2人は雰囲気が悪くなればとことん悪くなるが、向いている方向さえ同じになれば、なんでも2倍以上の力を発揮する。
それでも、演出・構成は郁斗の担当でもあった。
「お疲れー!構成の話なら、俺も混ぜてくれない~?」
郁斗は扉を全て開け放って話に入っていった。
「郁斗もっと早く来いよ~待ちくたびれて仲森が入ってくる羽目になったじゃねえか」
「おい、神田?」
「ちょっと、侑は余計なこと言うなって。賢くんもいちいち聞かないで」
仲森くんと侑真くんの小競り合いを西園寺が諫め、歩がそれをニコニコと見守っている。
『SN―SKY』はこれまでで一番良い雰囲気だった。
話し合いは弾み、ふと窓の外を見ると、もう夕陽が沈みかけていた。
「——じゃ、詰める所はこれで終わりだな。明日また会場で確認……8時入りだっけ?」
仲森がスマホを確認し、郁斗と神田は広げた資料を片付ける。
「うん、8時入りだな。みんな、明日は——」
「よっしゃー!!」
仲森がリーダーらしいことを言おうとしたその瞬間、隣の会議室から大きな歓声が聞こえてきた。声からして研修生たちだろうか。その声は会議室を出て、郁斗たちがいる会議室のすぐ外にまで派生していった。
——何?
「ちょっと俺、見てくるね」
席を立ち、ドアに手を掛ける。
「……っやめとけ、郁斗」
「え?」
神田の声に振り返ると、仲森くんの顔は血の気が引き、目は虚ろだ。そんな仲森の背中を神田はドンッと強く叩く。
「やったー!デビューだー!!」
すぐそばの廊下から聞こえてきた声に、頭が思考を止めた。
——…………デビュー?
「クソッ!」
仲森のその声は小さくとも、大きな激情を孕んでいた。
彼らが去った後、神田は持っていた資料をクシャリと掴み、西園寺も頭を抱えていた。歩も、悔しそうな表情を滲ませている。
「みんな、明日は切り替えていくぞ。ファンはこっち側の事情なんか知らないんだからな」
神田はそう言い、「こいつは俺が引き取る」と仲森を連れて出て行った。
仲森も神田もずっと東京にいて、自分の周りにいた研修生がデビューしていくのを人一倍見ていたから、察しが速かったのだろう。
廊下で嬉々として叫んでいた研修生は郁斗と同学年の後輩で、仲森がかつて所属し、脱退したグループだった。
ふと窓の外を見ると、夕陽がビル群の隙間を抜けている。
いつも何気なく見ていた日の入りが、まるで世界の終わりかのように見えた。