「郁斗、変わったよね」
名古屋公演一日目。昼公演と夜公演の間、郁斗と西園寺は並んでフェイスパックが浸透するのを待っていた。
「え?」
「別にね、悪いって話じゃないんだけどさ。郁斗って猪突猛進だったじゃん?」
「俺、猪突猛進?」
一度も言われたことのない評価で、郁斗は「心外だ」という顔で西園寺を見る。彼は口の動きを最小限にして話し始める。
「ああ。悪く言えば周りが見えてない。でも、キャラ付けが完璧だったからそれでもやっていけたと思う。でも歩が入ってから、グループ出来てからは特にだけど、元々の良さが出てて、そういう所が好きなファンも多いんじゃないか?」
西園寺の言っていることに、思い当たることはあった。去年、夏のコンサートでリーダーを務めた時よりも、周りの様子が見れるようになったと感じていた。
猪突猛進。
きっと、西園寺のように1人でも抜きんでていたら、「周りが見えていない」とは評されなかっただろう。
——仮にグループに所属していたら、きっと悪目立ちしていた
そんな郁斗を周りへと目を向けさせたのは。
西園寺はポン、と郁斗の肩を叩いた。
「ま、俺は郁斗と同じグループになって、同じステージに立てて嬉しいよ、ぶっちゃけ。ずっとそうなったら良いなって思ってたんだよな」
「そうなの?」
「ああ。だってもう、名古屋支部で一緒だった同期はみんな辞めたからな……1人で走るのは、キツイだろ?」
フェイスパックで表情はよく見えないが、その瞳は寂しそうに見えた。
名古屋支部の仲間たちはグループを組んで東京に行った者も含め、みんな辞めていった。それはグループを組んでいない西園寺との差を悲観してのことだったと、郁斗は知っている。
「ああ、まあな」
人それぞれ、悩むポイントは違う。一見充実している人にも、心の底では悩んでいることはあるのだろう。だからこそ他人と比較する意味なんてないと。そう、分かっていても人間は比べてしまう生き物だろう。
特に、数字が全てと言っても過言ではない芸能界に身を置く者は。
「そんでね、ギラギラで猪突猛進な郁斗見てたら、俺も燃えてきちゃったんだよな」
ビジュアルなど、所詮は個人の好みに帰結する。だが、西園寺の持つビジュアルは好みの範疇を越えた所に存在している。誰が見てもイケメンで、品の良さと余裕がにじみ出ているのだ。第一印象で圧倒的に有利な人間。
しかしそれ故に、闘争心がなかった。当然、西園寺だってデビューはしたい。けれど、他の研修生のような燃え滾る情熱は湧いていなかった。
デビューを決める大人たちは、単に実力や現時点の成果だけを見ているのではないのだ。デビューした後にどれだけ伸びるかも、よく見ていた。
郁斗は段々と、『SN―SKY』がどうしてこのメンバーとなったかを理解し始めていた。
「じゃ、そういうことで」
西園寺はスマホで時間を確認すると、フェイスパックを取って楽屋を出ていった。
彼は仲森のように「こうした方が良い」とアドバイスをしてくることはない。ビジュアルだけで楽をしている、と陰で他の研修生らに言われていることを知っているからだろうか。
けれど随所で郁斗には的確な意見を言ってくれるし、頼りにもなる。けして郁斗を傷つけまいとする言葉選びは、やはり同期と言っても年上なのだなと、よく思う。
名古屋公演一日目。昼公演と夜公演の間、郁斗と西園寺は並んでフェイスパックが浸透するのを待っていた。
「え?」
「別にね、悪いって話じゃないんだけどさ。郁斗って猪突猛進だったじゃん?」
「俺、猪突猛進?」
一度も言われたことのない評価で、郁斗は「心外だ」という顔で西園寺を見る。彼は口の動きを最小限にして話し始める。
「ああ。悪く言えば周りが見えてない。でも、キャラ付けが完璧だったからそれでもやっていけたと思う。でも歩が入ってから、グループ出来てからは特にだけど、元々の良さが出てて、そういう所が好きなファンも多いんじゃないか?」
西園寺の言っていることに、思い当たることはあった。去年、夏のコンサートでリーダーを務めた時よりも、周りの様子が見れるようになったと感じていた。
猪突猛進。
きっと、西園寺のように1人でも抜きんでていたら、「周りが見えていない」とは評されなかっただろう。
——仮にグループに所属していたら、きっと悪目立ちしていた
そんな郁斗を周りへと目を向けさせたのは。
西園寺はポン、と郁斗の肩を叩いた。
「ま、俺は郁斗と同じグループになって、同じステージに立てて嬉しいよ、ぶっちゃけ。ずっとそうなったら良いなって思ってたんだよな」
「そうなの?」
「ああ。だってもう、名古屋支部で一緒だった同期はみんな辞めたからな……1人で走るのは、キツイだろ?」
フェイスパックで表情はよく見えないが、その瞳は寂しそうに見えた。
名古屋支部の仲間たちはグループを組んで東京に行った者も含め、みんな辞めていった。それはグループを組んでいない西園寺との差を悲観してのことだったと、郁斗は知っている。
「ああ、まあな」
人それぞれ、悩むポイントは違う。一見充実している人にも、心の底では悩んでいることはあるのだろう。だからこそ他人と比較する意味なんてないと。そう、分かっていても人間は比べてしまう生き物だろう。
特に、数字が全てと言っても過言ではない芸能界に身を置く者は。
「そんでね、ギラギラで猪突猛進な郁斗見てたら、俺も燃えてきちゃったんだよな」
ビジュアルなど、所詮は個人の好みに帰結する。だが、西園寺の持つビジュアルは好みの範疇を越えた所に存在している。誰が見てもイケメンで、品の良さと余裕がにじみ出ているのだ。第一印象で圧倒的に有利な人間。
しかしそれ故に、闘争心がなかった。当然、西園寺だってデビューはしたい。けれど、他の研修生のような燃え滾る情熱は湧いていなかった。
デビューを決める大人たちは、単に実力や現時点の成果だけを見ているのではないのだ。デビューした後にどれだけ伸びるかも、よく見ていた。
郁斗は段々と、『SN―SKY』がどうしてこのメンバーとなったかを理解し始めていた。
「じゃ、そういうことで」
西園寺はスマホで時間を確認すると、フェイスパックを取って楽屋を出ていった。
彼は仲森のように「こうした方が良い」とアドバイスをしてくることはない。ビジュアルだけで楽をしている、と陰で他の研修生らに言われていることを知っているからだろうか。
けれど随所で郁斗には的確な意見を言ってくれるし、頼りにもなる。けして郁斗を傷つけまいとする言葉選びは、やはり同期と言っても年上なのだなと、よく思う。