クリスマスを越え、元旦を過ぎるとすぐに名古屋公演が始まる。三が日も完全な休みではなく、3日夜に名古屋入りしなければいけない。今はその移動中だ。
窓際に座る歩を見やる。何を考えているのかいないのか、外の景色を眺めていることは分かる。
マネージャーはこの前日に会場の設備変更が出たとかで前倒しで現場入りした。「行けるでしょ。結城くんをよろしくね」と言い残して。つまり、2人きりだ。大変気まずい。あの時注文したグッズは翌日に届き、正真正銘のクリスマスプレゼントになってしまった。
捨てるのも、引き出しの奥に仕舞うのも忍びなくて、郁斗の部屋は今や歩ファンのオタク部屋と化していた。流石に大きなポスターは貼れなかったけれど。
名古屋駅はいつも混雑している。広く長いコンコースの人の流れはとても速い。人混みの中から『SN―SKY』の声が聞こえたような気がした。
「こっち」
人の波に流されないよう、歩の手を引く。いつもはこんなことをしないがやむを得ない。宿泊先のホテルは分かっている。さっさとたどり着かなければ。
「ちょっと、郁斗くん!」
「え?」
「速いよ。どうしたの?」
見ると、掴んでいた歩の手首に赤い跡が出来ていた。
「あ、ごめ……もうすぐ着くから……」
駅ビルを出て少し歩くと目的のホテルが顔を出した。さっさとチェックインを済ませて2人で部屋に向かう。
今日も二人は同室だ。
「ご飯どうする?西園寺くんも誘ってどっか……」
荷解きをしながら歩が尋ねる。郁斗は重い身体をベッドに沈めた。
「いや、俺はいいよ。もう寝る……」
「え?お腹空いてない?どっか悪い?」
歩はベッドに乗り上げ、郁斗の顔を覗き込んだ。
「いや……」
歩に背を向けた所で部屋のブザーが鳴り、歩はベッドを降りてドアを見に行くと、「西園寺くんだ!」と嬉々としてドアを開けた。
「お疲れ2人とも。そろそろ着くってマネージャーさんから連絡来てさ」
西園寺は別仕事の関係で昨日から名古屋入りしていた。部屋はいつも隣同士だから、物音が聞こえたのだろう。
「どうしよ、西園寺くん。郁斗くん食欲ないっぽい。どっか悪いのかも……」
「そうなのか?」
郁斗は仰向けになって2人を見る。心配そうな西園寺と、困惑気味の歩。何と返そうか思案していると、腹が盛大に鳴った。
——やっば……
「あんじゃん、食欲。どうしたのさ」
ぺシッとおれの頭を叩く西園寺。
「外に出たくないのー」
「ああ、そういう。歩、俺らだけで行こ。郁斗にも何かテイクアウトしよーぜ」
西園寺は納得したように郁斗から離れた。
「え?そういうことって、どういうこと?何か知ってるの?」
「いーから。行くぞ」
西園寺は疑問を発する歩を引き摺って部屋を出ていった。
窓際に座る歩を見やる。何を考えているのかいないのか、外の景色を眺めていることは分かる。
マネージャーはこの前日に会場の設備変更が出たとかで前倒しで現場入りした。「行けるでしょ。結城くんをよろしくね」と言い残して。つまり、2人きりだ。大変気まずい。あの時注文したグッズは翌日に届き、正真正銘のクリスマスプレゼントになってしまった。
捨てるのも、引き出しの奥に仕舞うのも忍びなくて、郁斗の部屋は今や歩ファンのオタク部屋と化していた。流石に大きなポスターは貼れなかったけれど。
名古屋駅はいつも混雑している。広く長いコンコースの人の流れはとても速い。人混みの中から『SN―SKY』の声が聞こえたような気がした。
「こっち」
人の波に流されないよう、歩の手を引く。いつもはこんなことをしないがやむを得ない。宿泊先のホテルは分かっている。さっさとたどり着かなければ。
「ちょっと、郁斗くん!」
「え?」
「速いよ。どうしたの?」
見ると、掴んでいた歩の手首に赤い跡が出来ていた。
「あ、ごめ……もうすぐ着くから……」
駅ビルを出て少し歩くと目的のホテルが顔を出した。さっさとチェックインを済ませて2人で部屋に向かう。
今日も二人は同室だ。
「ご飯どうする?西園寺くんも誘ってどっか……」
荷解きをしながら歩が尋ねる。郁斗は重い身体をベッドに沈めた。
「いや、俺はいいよ。もう寝る……」
「え?お腹空いてない?どっか悪い?」
歩はベッドに乗り上げ、郁斗の顔を覗き込んだ。
「いや……」
歩に背を向けた所で部屋のブザーが鳴り、歩はベッドを降りてドアを見に行くと、「西園寺くんだ!」と嬉々としてドアを開けた。
「お疲れ2人とも。そろそろ着くってマネージャーさんから連絡来てさ」
西園寺は別仕事の関係で昨日から名古屋入りしていた。部屋はいつも隣同士だから、物音が聞こえたのだろう。
「どうしよ、西園寺くん。郁斗くん食欲ないっぽい。どっか悪いのかも……」
「そうなのか?」
郁斗は仰向けになって2人を見る。心配そうな西園寺と、困惑気味の歩。何と返そうか思案していると、腹が盛大に鳴った。
——やっば……
「あんじゃん、食欲。どうしたのさ」
ぺシッとおれの頭を叩く西園寺。
「外に出たくないのー」
「ああ、そういう。歩、俺らだけで行こ。郁斗にも何かテイクアウトしよーぜ」
西園寺は納得したように郁斗から離れた。
「え?そういうことって、どういうこと?何か知ってるの?」
「いーから。行くぞ」
西園寺は疑問を発する歩を引き摺って部屋を出ていった。