良く晴れたお出かけ日和。賑わう街がよく見える。
「一度行ってみたかったんだよねえ」と連れてこられたのは108メートルの大阪のシンボルタワーだった。
賑やかな商店が並ぶ中にそびえ立ち、最近では新しいアトラクションが始まったらしく、賑やかさは劣るところを知らない。
「歩はココ来たことなかったの?」
「うん。俺んちはあんまり旅行とかしないから。中学の修学旅行は北海道だったし。わっ、すごい、願い叶えてくれるんだって」
金色に輝く神様の置物にいそいそと駆け寄った歩は、置物の足裏を丁寧に撫でる。その姿は真剣そのものだった。
「郁斗くんは?願わないの?」
「俺は前来た時に願ったからいいの」
郁斗はさっさと先を進み始めた。歩は慌てて追いかけてくる。
「え、何なに?何願ったの?」
「ナイショ~」
郁斗はその時願ったことを忘れたことはなかった。
——俺の存在で沢山の人が幸せになりますようにって
その願いは今、叶っているのだろうか。そしてこれからもずっと叶え続けられるのか。あまりにも他者にしか判断できない願いに、つくづくアイドルなのだと郁斗は思った。
歩のことだから「動物園に行きたい」と言い出すかと思ったが、そんなことはなかった。日本で2番目に高いビルの展望台行きチケットカウンターはスルーしてカフェで一息つくと、歩は機嫌よさそうにカプチーノを飲んでいる。
先ほど行ったシンボルタワーより遥かに高い所だが、歩はそれでいいのだろうか。高い所が好きなのか、そうでもないのか。この子はやっぱりよく分からない。
カフェの看板メニューのサンドイッチを頬張る歩。 口いっぱい頬張る歩は、さながらハムスターのようだった。郁斗は自分の皿に載ったショートケーキの、真ん中に居座るイチゴをフォークで刺した。
そのまま歩の前にイチゴを差し出す。
「ん」
「え?」
「あげる」
早く食え、と言う風にもう一度イチゴを近づけると、イチゴは歩の唇に触れ。歩は耳を赤らめ、視線を逸らした。
——……何で、そんな照れてんの?
言いかけて、止まった。フォークとイチゴ越しに伝わる唇の感触が、柔らかくて。
おずおずと開いた口から見えた歩の舌に、今度は郁斗が視線を逸らす。
何故か、郁斗は歩と同じような顔をしているような気がした。
それを確かめる勇気はなかったけれど。
「一度行ってみたかったんだよねえ」と連れてこられたのは108メートルの大阪のシンボルタワーだった。
賑やかな商店が並ぶ中にそびえ立ち、最近では新しいアトラクションが始まったらしく、賑やかさは劣るところを知らない。
「歩はココ来たことなかったの?」
「うん。俺んちはあんまり旅行とかしないから。中学の修学旅行は北海道だったし。わっ、すごい、願い叶えてくれるんだって」
金色に輝く神様の置物にいそいそと駆け寄った歩は、置物の足裏を丁寧に撫でる。その姿は真剣そのものだった。
「郁斗くんは?願わないの?」
「俺は前来た時に願ったからいいの」
郁斗はさっさと先を進み始めた。歩は慌てて追いかけてくる。
「え、何なに?何願ったの?」
「ナイショ~」
郁斗はその時願ったことを忘れたことはなかった。
——俺の存在で沢山の人が幸せになりますようにって
その願いは今、叶っているのだろうか。そしてこれからもずっと叶え続けられるのか。あまりにも他者にしか判断できない願いに、つくづくアイドルなのだと郁斗は思った。
歩のことだから「動物園に行きたい」と言い出すかと思ったが、そんなことはなかった。日本で2番目に高いビルの展望台行きチケットカウンターはスルーしてカフェで一息つくと、歩は機嫌よさそうにカプチーノを飲んでいる。
先ほど行ったシンボルタワーより遥かに高い所だが、歩はそれでいいのだろうか。高い所が好きなのか、そうでもないのか。この子はやっぱりよく分からない。
カフェの看板メニューのサンドイッチを頬張る歩。 口いっぱい頬張る歩は、さながらハムスターのようだった。郁斗は自分の皿に載ったショートケーキの、真ん中に居座るイチゴをフォークで刺した。
そのまま歩の前にイチゴを差し出す。
「ん」
「え?」
「あげる」
早く食え、と言う風にもう一度イチゴを近づけると、イチゴは歩の唇に触れ。歩は耳を赤らめ、視線を逸らした。
——……何で、そんな照れてんの?
言いかけて、止まった。フォークとイチゴ越しに伝わる唇の感触が、柔らかくて。
おずおずと開いた口から見えた歩の舌に、今度は郁斗が視線を逸らす。
何故か、郁斗は歩と同じような顔をしているような気がした。
それを確かめる勇気はなかったけれど。