夜公演は無事に終わり、大阪での公演はこれで終わりだ。
もっと、厳しい視線を向けられるものだと郁斗は思っていた。SNSでの苦言や中傷など嘘のように、ファンが向ける目は優しかった。SNSの呟きなど、全体のごく少数だと分かっていても、それを理解するのは容易くなかった。
歩も同じことを思えていたらいいな、と、同じ部屋の隣のベッドですやすやと眠る彼の寝顔を見ていて思った。
夜明け前、朝5時。連日の早起きのせいか、目覚ましの1時間半も早くに起きてしまった。カーテンをそっと開けて外の景色を望む。12月だからか、日はまだ昇っておらず車通りも少ない。
東京とあまり変わらない乱立するビル群を見ていると、その窓の数だけ人々の生活が存在することを思う。そして、この窓の数だけの人々を振り向かせるという決意を、燃え滾らせずにはいられない。
アイドルはきっと、人々の生活や人生を照らす存在だと、郁斗は思っている。どんな辛い日も、何もない日も、自分たちアイドルを見て笑顔になる人を拡げていくのだ、と。
「んー……郁斗くん?」
歩がベッドの中で身を捩らせ、頭まで被っていた寝具から顔を出した。ふわふわとした寝ぐせをつけたまま。微睡みの中にいても、綿毛がふわりと舞っていた。
「歩。まだ寝てて良いよ。疲れちゃうよ」
「うん……」
歩は再びベッドに埋もれていった。その姿が穴に入っていく兎のようで、かわいいと、思った。
無意識のうちに噛んでいた唇を解放し、部屋を無意味に見渡して気を紛らわした後、ベッドに戻った。
今日は午前中にチェックアウトを済ませたら、夕方に東京へと戻る。年上3人は別の仕事で早々に発ってしまうが、マネージャーの計らいで2人は観光する時間を設けてもらった。歩は当然のように郁斗を誘った。
どこに行くとも、まだ決めていない。舞台などで大阪に来たことは何度かあり、大体の観光地には行ってしまった。歩に案内しろと言われれば、してやれないこともない。
——結局、面倒みてやるんだから俺は……
目を閉じて深呼吸すると、いとも簡単に眠りにつけた。
もっと、厳しい視線を向けられるものだと郁斗は思っていた。SNSでの苦言や中傷など嘘のように、ファンが向ける目は優しかった。SNSの呟きなど、全体のごく少数だと分かっていても、それを理解するのは容易くなかった。
歩も同じことを思えていたらいいな、と、同じ部屋の隣のベッドですやすやと眠る彼の寝顔を見ていて思った。
夜明け前、朝5時。連日の早起きのせいか、目覚ましの1時間半も早くに起きてしまった。カーテンをそっと開けて外の景色を望む。12月だからか、日はまだ昇っておらず車通りも少ない。
東京とあまり変わらない乱立するビル群を見ていると、その窓の数だけ人々の生活が存在することを思う。そして、この窓の数だけの人々を振り向かせるという決意を、燃え滾らせずにはいられない。
アイドルはきっと、人々の生活や人生を照らす存在だと、郁斗は思っている。どんな辛い日も、何もない日も、自分たちアイドルを見て笑顔になる人を拡げていくのだ、と。
「んー……郁斗くん?」
歩がベッドの中で身を捩らせ、頭まで被っていた寝具から顔を出した。ふわふわとした寝ぐせをつけたまま。微睡みの中にいても、綿毛がふわりと舞っていた。
「歩。まだ寝てて良いよ。疲れちゃうよ」
「うん……」
歩は再びベッドに埋もれていった。その姿が穴に入っていく兎のようで、かわいいと、思った。
無意識のうちに噛んでいた唇を解放し、部屋を無意味に見渡して気を紛らわした後、ベッドに戻った。
今日は午前中にチェックアウトを済ませたら、夕方に東京へと戻る。年上3人は別の仕事で早々に発ってしまうが、マネージャーの計らいで2人は観光する時間を設けてもらった。歩は当然のように郁斗を誘った。
どこに行くとも、まだ決めていない。舞台などで大阪に来たことは何度かあり、大体の観光地には行ってしまった。歩に案内しろと言われれば、してやれないこともない。
——結局、面倒みてやるんだから俺は……
目を閉じて深呼吸すると、いとも簡単に眠りにつけた。