大阪2日目。
その昼公演と夜公演の間、約2時間の休憩時間。
仲森は来月から撮影が始まるドラマの台本を読み込み、神田は会場を散歩しに行き、西園寺は夜公演の髪型をどうするか思案している。
郁斗は寝ることにした。緊張と寝坊が怖くて眠りが浅くなり、コンサート期間中、いつもこの時間帯は眠気がマックスになるのだ。
一刻も早く眠りたいのに、郁斗は眠れずにいた。使う予定のソファーベッドに歩が座っていたので。しかも、こんなことを言い出した。
「ねえ、郁斗くん。……一緒に寝てくれない?」
無垢な瞳の、上目遣い。ざわめき出す心臓に、つっかえそうな言葉をどうにか引き出す。
「なんでよ、暑いじゃん」
「1人だと寝れる気がしなくて」
ステージに堂々と立っていた歩の顔色が良くない。今日の昼公演で、歩は歌唱の音程を大きく外した箇所があった。動揺からか、その後のダンスの振りに少しミスがあった。歌唱はともかく、ダンスはそれを言われるまで気づかなかったし、今日はテレビ関係のカメラもなかった。だから、それほど気にするほどのことでもないのだが。
けれど、過去自分も同じことをして、同じように落ち込んだ身からすれば「気にするな」と言った所で意味がないこともよく分かっていた。
「しゃーないなぁ。いいよ」
ソファーベッドの背もたれを倒し、その半分に寝ころんで空いたスペースをトントン、と叩く。
「ありがと、郁斗くん」
隣に寝る歩に背を向ける。少し窮屈だが、寝られない訳じゃない。寝がえりは打てないかもしれないけれど、そこまで深く眠るつもりはなかった。だから、どんな体勢で寝ようと問題はなかった。筈だった。
「え、ちょっと」
背後から腰を抱かれた。疑問を口にする前に歩の頭も、胴も、足の先に至るまで郁斗にピタリとくっついた。
「んー?」
「いや、何、この体勢?」
「ふふ……」
背中に歩の呼吸が触れる。半分眠っているようなその声に、何故か心臓がゾクリと痛んだ。
「郁斗くん、あったかいから」
郁斗をホールドしたままそう零す歩の手に触れると、氷のように冷たい。冬だからという理由では、決してないだろう。少し躊躇ってから歩の手を彼が眠るまで摩り続けた。
時折、2人の間から聞こえる衣擦れの音と歩の寝息が、妙に郁斗の耳に残った。
郁斗は珍しく、ぐっすりと眠ることができた。
後日、神田によっていつのまにか撮られたその映像がファンクラブコンテンツに上げられ、ドッキリ動画以上に反響があったのは言うまでもない。
その昼公演と夜公演の間、約2時間の休憩時間。
仲森は来月から撮影が始まるドラマの台本を読み込み、神田は会場を散歩しに行き、西園寺は夜公演の髪型をどうするか思案している。
郁斗は寝ることにした。緊張と寝坊が怖くて眠りが浅くなり、コンサート期間中、いつもこの時間帯は眠気がマックスになるのだ。
一刻も早く眠りたいのに、郁斗は眠れずにいた。使う予定のソファーベッドに歩が座っていたので。しかも、こんなことを言い出した。
「ねえ、郁斗くん。……一緒に寝てくれない?」
無垢な瞳の、上目遣い。ざわめき出す心臓に、つっかえそうな言葉をどうにか引き出す。
「なんでよ、暑いじゃん」
「1人だと寝れる気がしなくて」
ステージに堂々と立っていた歩の顔色が良くない。今日の昼公演で、歩は歌唱の音程を大きく外した箇所があった。動揺からか、その後のダンスの振りに少しミスがあった。歌唱はともかく、ダンスはそれを言われるまで気づかなかったし、今日はテレビ関係のカメラもなかった。だから、それほど気にするほどのことでもないのだが。
けれど、過去自分も同じことをして、同じように落ち込んだ身からすれば「気にするな」と言った所で意味がないこともよく分かっていた。
「しゃーないなぁ。いいよ」
ソファーベッドの背もたれを倒し、その半分に寝ころんで空いたスペースをトントン、と叩く。
「ありがと、郁斗くん」
隣に寝る歩に背を向ける。少し窮屈だが、寝られない訳じゃない。寝がえりは打てないかもしれないけれど、そこまで深く眠るつもりはなかった。だから、どんな体勢で寝ようと問題はなかった。筈だった。
「え、ちょっと」
背後から腰を抱かれた。疑問を口にする前に歩の頭も、胴も、足の先に至るまで郁斗にピタリとくっついた。
「んー?」
「いや、何、この体勢?」
「ふふ……」
背中に歩の呼吸が触れる。半分眠っているようなその声に、何故か心臓がゾクリと痛んだ。
「郁斗くん、あったかいから」
郁斗をホールドしたままそう零す歩の手に触れると、氷のように冷たい。冬だからという理由では、決してないだろう。少し躊躇ってから歩の手を彼が眠るまで摩り続けた。
時折、2人の間から聞こえる衣擦れの音と歩の寝息が、妙に郁斗の耳に残った。
郁斗は珍しく、ぐっすりと眠ることができた。
後日、神田によっていつのまにか撮られたその映像がファンクラブコンテンツに上げられ、ドッキリ動画以上に反響があったのは言うまでもない。