「皆さんこんにちはー!『SN―SKY』です!!出来立てホヤホヤのグループということで、まずは自己紹介からしていきたいと思います。まずは僕、西園寺翔太です!よろしくお願いしまーす!今、ティオールさんのメンズフレグランスと、ゴールデン製菓さんのゴールドサンドクッキーのCMに出演しています。また、観光大使もしていますのでよろしくお願いします!次は、賢くーん!」
常にカメラ目線。大きなモニターに西園寺の顔がアップで映されると、会場が歓声に揺れた。
「仲森賢矢です!みんな、今日は来てくれてありがとう!会えるの楽しみすぎて、昨日は本当に眠れなかった……え?みんなも?それは嬉しいな。今日はよろしくね!あ、『夜明けの王家』絶賛上映中でーす!」
優しい口調と笑顔。しかし仲森の力強さは、会場に覇気をもたらす。仲森のファンを越え、全ての人間に元気を与えていくその様は経験が織りなすものだ。
「神田侑真です。朝寝坊しかけてマジヤバかったっス。『キャンパス笑劇場』、毎週水曜25時からレギュラーで出てますんで、よろしければ」
サラッとした挨拶に、シンプルな動きとクールな佇まい。しかし最後にはカメラ目線でニコリと笑う。会場中が釘付けになる魅力がそこにあった。
「みなさーん!こんにちは!!あざとかわいいで世界を包みたい、メンバーカラーがサクラ色の桜木郁斗です。あ、ピンクのペンライト振ってくれてありがとうー!実は俺、侑真くんの先輩なんです!びっくりした?名前だけでも覚えて帰ってくださーい!サクラ色の桜木郁斗です!!」
アイドルスイッチ、全開!
自己紹介は、計算されつくした郁斗のキャラクターが光るところである。コミカルな動きに加え、カメラの画角と会場の視線を意識した目線。全てが郁斗のものだ。
「こんにちは、結城歩です。郁斗くんと同じ年、同じ誕生日です!皆さんに一日でも早く、新しい景色を見せられるよう日々頑張っています!今日は俺のことを少しでも見ていてください。離せなくします!よろしくお願いします!」
真っ直ぐに会場を見つめ、真っ直ぐな歩らしい自己紹介。天然が目立つ歩の、新たな一面を魅せられた会場が息をのむのがよく分かった。
それぞれのソロパフォーマンスとユニット歌唱が終わった後のMC。自己紹介をしつつ、近況の話に移る。
「この前さあ、2人バチバチの時あったじゃん?あれは痺れたわー!」
どよめく会場に、水分補給をしていた当該の2人は慌ててペットボトルを置いてブンブンと手を振る。
「いやいや、あの、喧嘩とかじゃなくてね?」
「そうそう、ちょっと熱くなっちまってな」
神田が従来のアイドルファンとは違う層から人気を獲得し始め、研修生の中でも存在感を出し始めていた頃。2人の仲は、それはもうすこぶる悪かった。
今の郁斗と同程度に闘争心を燃やしていた2人は互いの存在が目障りで、気に食わないのと同時に、焦りがそれに拍車をかけていた。
しかしそんな時期に限って2人は一緒に仕事をするようになってしまった。その時期から2人を推しているファンたちは、2人の仲にとても敏感なのだ。
「いや、あれはホントにすごかったよ。2人の眼光がもう、こんな」
お茶目な西園寺は笑いながらカメラに向かって鋭い視線を放つ。が、ファンにとってはご褒美だったようで、大きな悲鳴があがる。
「オンジー、しれっとビジュアピすんな?ずるくね、顔でなんでも解決しやがって。なあ郁斗?」
「ほんとー。良いなあ翔太。ま、俺も負けてないけどねー?」
郁斗も負けじと近くのカメラに向かって顔ハートを作る。観客席からは「かわいー!」という歓声があがった。
——よしよし、あざといあざとい。
カメラの傍に目をやると、ニコニコとみんなの話を聞いている歩が目に入った。どうせなら、彼にも何か喋ってほしい。ついでに最近需要が高まっている双子アピールでもしてみようか。
歩の後ろから手を回し、スッと彼を引き寄せた。バニラの香りのする耳元に顔を近づけて聞いてみる。ざわめく会場の様子に、郁斗の心は踊った。
「歩はどーお?俺も負けてないよねえ」
これで双子ショットは完璧だ。モニターを見つつそんなことを考えたのもつかの間。
引き寄せた手は解かれ、歩の身体が離れたかと思うと彼は振り返って前から俺のことを抱きしめ返してきた。ふわっと、かすかな音がした。
「大優勝だよお」
一瞬の静寂の後。
この日一番の大歓声が会場を揺らした。
——え?な、なになになに、え?
「俺らの弟は仲いいなぁ」
「いや、オンジーは1つしか変わんないじゃん」
「ははは。俺にとっては神田も弟みたいなもんだよ」
混乱し続ける郁斗をよそに、年上3人はほのぼのと話を続ける。観客はというと、ただひたすら悲鳴をあげている。
郁斗は歩の肩を軽く叩いて離した。
「いや、『キャー』じゃないのよ。しかもそっちは何で普通に話続けてんのさ」
——……あ
「お、郁斗Ver.サバサバ出たぞ~。お嬢さん方気を付けて」
「ええ~なんのことかなあ?侑真くん、みんな?」
アイドルスマイルを戻して観客席の方を見る。ファンたちはクスクスと微笑ましそうな視線を向けた。中身はサバサバしていて、それがバレていてもあざとかわいい言動をする白々しさが面白いのだろう。
当初考えていたキャラ路線とは若干違えたが、磨き続けたビジュアルも、あざとかわいい視線や話し方、表情も無駄にはなっていないのだから、これはこれで良いのかもしれない。複雑ながらもこの時初めて、そう思えた気がした。
常にカメラ目線。大きなモニターに西園寺の顔がアップで映されると、会場が歓声に揺れた。
「仲森賢矢です!みんな、今日は来てくれてありがとう!会えるの楽しみすぎて、昨日は本当に眠れなかった……え?みんなも?それは嬉しいな。今日はよろしくね!あ、『夜明けの王家』絶賛上映中でーす!」
優しい口調と笑顔。しかし仲森の力強さは、会場に覇気をもたらす。仲森のファンを越え、全ての人間に元気を与えていくその様は経験が織りなすものだ。
「神田侑真です。朝寝坊しかけてマジヤバかったっス。『キャンパス笑劇場』、毎週水曜25時からレギュラーで出てますんで、よろしければ」
サラッとした挨拶に、シンプルな動きとクールな佇まい。しかし最後にはカメラ目線でニコリと笑う。会場中が釘付けになる魅力がそこにあった。
「みなさーん!こんにちは!!あざとかわいいで世界を包みたい、メンバーカラーがサクラ色の桜木郁斗です。あ、ピンクのペンライト振ってくれてありがとうー!実は俺、侑真くんの先輩なんです!びっくりした?名前だけでも覚えて帰ってくださーい!サクラ色の桜木郁斗です!!」
アイドルスイッチ、全開!
自己紹介は、計算されつくした郁斗のキャラクターが光るところである。コミカルな動きに加え、カメラの画角と会場の視線を意識した目線。全てが郁斗のものだ。
「こんにちは、結城歩です。郁斗くんと同じ年、同じ誕生日です!皆さんに一日でも早く、新しい景色を見せられるよう日々頑張っています!今日は俺のことを少しでも見ていてください。離せなくします!よろしくお願いします!」
真っ直ぐに会場を見つめ、真っ直ぐな歩らしい自己紹介。天然が目立つ歩の、新たな一面を魅せられた会場が息をのむのがよく分かった。
それぞれのソロパフォーマンスとユニット歌唱が終わった後のMC。自己紹介をしつつ、近況の話に移る。
「この前さあ、2人バチバチの時あったじゃん?あれは痺れたわー!」
どよめく会場に、水分補給をしていた当該の2人は慌ててペットボトルを置いてブンブンと手を振る。
「いやいや、あの、喧嘩とかじゃなくてね?」
「そうそう、ちょっと熱くなっちまってな」
神田が従来のアイドルファンとは違う層から人気を獲得し始め、研修生の中でも存在感を出し始めていた頃。2人の仲は、それはもうすこぶる悪かった。
今の郁斗と同程度に闘争心を燃やしていた2人は互いの存在が目障りで、気に食わないのと同時に、焦りがそれに拍車をかけていた。
しかしそんな時期に限って2人は一緒に仕事をするようになってしまった。その時期から2人を推しているファンたちは、2人の仲にとても敏感なのだ。
「いや、あれはホントにすごかったよ。2人の眼光がもう、こんな」
お茶目な西園寺は笑いながらカメラに向かって鋭い視線を放つ。が、ファンにとってはご褒美だったようで、大きな悲鳴があがる。
「オンジー、しれっとビジュアピすんな?ずるくね、顔でなんでも解決しやがって。なあ郁斗?」
「ほんとー。良いなあ翔太。ま、俺も負けてないけどねー?」
郁斗も負けじと近くのカメラに向かって顔ハートを作る。観客席からは「かわいー!」という歓声があがった。
——よしよし、あざといあざとい。
カメラの傍に目をやると、ニコニコとみんなの話を聞いている歩が目に入った。どうせなら、彼にも何か喋ってほしい。ついでに最近需要が高まっている双子アピールでもしてみようか。
歩の後ろから手を回し、スッと彼を引き寄せた。バニラの香りのする耳元に顔を近づけて聞いてみる。ざわめく会場の様子に、郁斗の心は踊った。
「歩はどーお?俺も負けてないよねえ」
これで双子ショットは完璧だ。モニターを見つつそんなことを考えたのもつかの間。
引き寄せた手は解かれ、歩の身体が離れたかと思うと彼は振り返って前から俺のことを抱きしめ返してきた。ふわっと、かすかな音がした。
「大優勝だよお」
一瞬の静寂の後。
この日一番の大歓声が会場を揺らした。
——え?な、なになになに、え?
「俺らの弟は仲いいなぁ」
「いや、オンジーは1つしか変わんないじゃん」
「ははは。俺にとっては神田も弟みたいなもんだよ」
混乱し続ける郁斗をよそに、年上3人はほのぼのと話を続ける。観客はというと、ただひたすら悲鳴をあげている。
郁斗は歩の肩を軽く叩いて離した。
「いや、『キャー』じゃないのよ。しかもそっちは何で普通に話続けてんのさ」
——……あ
「お、郁斗Ver.サバサバ出たぞ~。お嬢さん方気を付けて」
「ええ~なんのことかなあ?侑真くん、みんな?」
アイドルスマイルを戻して観客席の方を見る。ファンたちはクスクスと微笑ましそうな視線を向けた。中身はサバサバしていて、それがバレていてもあざとかわいい言動をする白々しさが面白いのだろう。
当初考えていたキャラ路線とは若干違えたが、磨き続けたビジュアルも、あざとかわいい視線や話し方、表情も無駄にはなっていないのだから、これはこれで良いのかもしれない。複雑ながらもこの時初めて、そう思えた気がした。