そうしていたのは、ほんの数分であるはずなのに郁斗には何時間もそうしていたように思えた。
「わあ、すっごいね!」
郁斗から離れ、落ち着いた歩は会場のステージに気が付いたようで、その場でくるくると回り目を丸く輝かせた。
「これ、全部郁斗くんが考えたの!?」
「うん。って言っても、侑真くんに手伝ってもらいながらだけど」
その言葉を聞いてか聞かずか、歩は客席の間を通ってステージに駆け寄り、傍にある階段を上ってステージのセンターに立った。
「郁斗くん見て見て~!」
「はいはい」
歩を追いかけ、一番前中央の客席に座って歩を見上げる。彼はおもむろにスマートフォンを取り出し、音源を流し始めた。曲は『ピチカート!』。コンサートの一番最初に踊る楽曲だ。郁斗と歩はしばらくスケジュールが合わず、練習が離れていた。
——さて、練習の成果は……
顔を上げたまま、郁斗は動けなくなった。
しなやかに動く身体。マイクは通していないけれど音程のとれた歌声、表情。そして、圧倒的なオーラ。その全てが郁斗の視線も、身体の自由も、全て奪った。
今、この時間。歩がソロコンサートをやっていると言っても過言ではない。
衣装も照明も、ヘアメイクもしていないのに。会場の窓から差し込む朝日と、舞う埃すらも綺麗に見えた。歩がふとこちらに目を向け、指ハートとウィンクを飛ばした。郁斗が教えたファンサの1つだ。
自然を笑みが零れる。
この瞬間をいつまでも、死んだ後だって、ずっとずっと覚えていたいと思った。
「わあ、すっごいね!」
郁斗から離れ、落ち着いた歩は会場のステージに気が付いたようで、その場でくるくると回り目を丸く輝かせた。
「これ、全部郁斗くんが考えたの!?」
「うん。って言っても、侑真くんに手伝ってもらいながらだけど」
その言葉を聞いてか聞かずか、歩は客席の間を通ってステージに駆け寄り、傍にある階段を上ってステージのセンターに立った。
「郁斗くん見て見て~!」
「はいはい」
歩を追いかけ、一番前中央の客席に座って歩を見上げる。彼はおもむろにスマートフォンを取り出し、音源を流し始めた。曲は『ピチカート!』。コンサートの一番最初に踊る楽曲だ。郁斗と歩はしばらくスケジュールが合わず、練習が離れていた。
——さて、練習の成果は……
顔を上げたまま、郁斗は動けなくなった。
しなやかに動く身体。マイクは通していないけれど音程のとれた歌声、表情。そして、圧倒的なオーラ。その全てが郁斗の視線も、身体の自由も、全て奪った。
今、この時間。歩がソロコンサートをやっていると言っても過言ではない。
衣装も照明も、ヘアメイクもしていないのに。会場の窓から差し込む朝日と、舞う埃すらも綺麗に見えた。歩がふとこちらに目を向け、指ハートとウィンクを飛ばした。郁斗が教えたファンサの1つだ。
自然を笑みが零れる。
この瞬間をいつまでも、死んだ後だって、ずっとずっと覚えていたいと思った。