「俺、ただ喋るだけの動画にしようかなあ」
 夏休みが明けたものの暑さが未だ残る中、いつものように2人で事務所のレッスンに向かう途中で、歩は唐突にそう言った。
「いやさあ、公演期間にあげてた動画の反応で『歩くんが長時間ただ話してるだけの動画が見たい』っていう声があってね」
 夏のコンサートの公演期間中、郁斗は歩にヘアメイクを施す動画をファンクラブにアップしていた。研修生はステージメイクも全て自分でしなければならない。それを利用した内容だった。
 郁斗は自分のキャラを作り込む中で、編み込みやハーフアップなどのかわいいヘアアレンジの他、メンズメイクを極めていた。
 双子アピールと名前を売るのには最適なやり方だった。
 されるばかりでなく、歩も郁斗の教えを習得していった。千穐楽には歩が1人でヘアメイクをし郁斗を驚かせる、という神田発案のドッキリを仕掛けられ、郁斗はまんまと引っ掛かってしまった。
 歩がヘアメイクをされている時、静かだと盛り上がらないので、ファンの質問に答えながらヘアメイクをした。その中で歩は突拍子もない発言を繰り返していた。天然というより不思議ちゃんに近い。そんな彼の発言が刺さるのか癒されるのか、1人語りをする動画が切望されていた。
「うん、良いんじゃない?」
「郁斗くんも出る?」
——……なんで?
 ファンは歩が1人語りをする動画を望んでいるのではないのか。歩も双子アピールを本格的に始めるつもりなのだろうか。
「え?」
「ほら、『双子の会話かわいい』とか『双子嬉しい』って呟き沢山あるよ?」
「確かに……。じゃあたまにゲストとして出ようかな。他のメンバーも誘ってみたら?」
「……!うん、そうする」
 歩はパッと顔を明るくして頷いた。
 あまりにも2人一緒にいすぎては、歩の天然かわいい様子を見せられないのではないか、と郁斗は思ってしまった。
——……おかしい
 少し前まではキャラが被ったら嫌だと思っていたのに。
 最近、少し歩に過保護になっているような気がする。
 歩は郁斗に甘えるどころか、1人で大抵のことはできるようになっていた。寄り付いてくる人は何気なくかわすし、事務所までの道のりを間違えることもなくなった。
——お冷はたまに零すけど
 直接面倒を見ることは少なくなった代わりに、心だけがどんどん過保護になっているような気がする。
 俺は最近おかしい。郁斗は心の中で首を傾げた。