いつまで経っても慣れない猛暑日の8月上旬、夏のコンサートが開幕した。
 リハーサルの段階から、歩は中学生を中心に周りを見つつ演出家に叱責を受けた奴のフォローを含め、全体の取り纏めを淡々とこなしていた。当然、いきなり抜擢された歩を良く思わない奴もいたが。
 去年リーダーを務めていた郁斗は、できる範囲分かる範囲で歩にアドバイスをした。注意の言葉の選び方や、どういう奴に声をかけるべきか等々。歩は律儀にそれをメモに取り、それを遂行していた。
 朝一番の新幹線で年上3人は地方仕事から東京に戻った。リハーサルを始める時も真面目な挨拶をし、場を回す歩の様子を仲森たちは「立派になったなぁ」と本物の兄のような目で感心していた。
 歩の歌の仕上がりは及第点といった所だ。軽いダンスをしながらの歌唱でも悪目立ちはしない。が、ステージに立って緊張が伴うとどうなるか分からない。かつて郁斗は緊張のせいで2、3音外した苦い記憶があった。
 そういえば、あの時「気にすんな」と声を掛けてくれたのは神田だったような気がする。
 歌に引き換え、ダンスの方は意外にも上手くいっていた。地頭のよさなのか振り覚えもよく、センスも良い。一緒にレッスンを受けていた時、郁斗はいかに自分のことしか見えていなかったか、ということに気が付いた。
 郁斗はどちらかと言えばダンスの方が得意なので、食われるんじゃないかとヒヤヒヤしていた。撮影の合間を縫って練習量を増やした。共演者やマネージャーに一時は本気で心配されたが、それも長く続けていると放置されるようになった。