「すごいな、桜木!7月期のドラマ決まったって」
「ねー!絶対見るよー」
 朝、登校するとクラスメイトたちが俺を取り囲む。が、ここで調子に乗ってはいけない。謙遜しつつ、自分のキャラも当然忘れずに。
「みんなありがと~。端役だけど、頑張るねっ」
 自慢のアイドルスマイルを向けると「キャー」と歓声をあげるみんな。
 ファンによれば桜木郁斗のあざとかわいさは、男女関係なく全人類を魅了すると言われている。
私立光瑛高校芸能科2年。
 それがこのクラス。人数が少ないから1クラスに収まっているが、俺の他にもアイドルや女優、アーティスト、モデルなどの芸能人が在籍している。同じ芸能界で席を争う者同士だが、まだ高校生だからか闘争心を燃やす奴なんかいない。
 俺、桜木郁斗を除いては。
 10才から大手アイドル事務所に所属し、研修生として得意なダンスを極めビジュアルの手入れも怠らず、こうやって自分のキャラ形成を公私共に完璧にしてきた。
——絶対、この芸能界で成功してやる。
 そんな闘争心は自慢のアイドルスマイルで覆い隠し、今日も俺は「あざとかわいい」の道を闊歩する。