地区予選は順調に勝ち進み、東東京大会に出場が決まった。
 翌日に試合を控えた日の昼休み、廊下で小野寺先生から僕にお声がかかった。
「相沢君、君明日ベンチ入りだから、制服で来てね。」
と、先生は言った。ハッとした。正式な公式戦だからなのか。
「分かりました。」
そう、答えるしかなかった。
 先生が行ってしまってから、やっと動けるようになった僕は、さっときびすを返した。すると、目の前に戸田が立っていた。僕を見ていたようだ。だが、目が合うと戸田が先に教室に入ってしまった。

 我が東尾学園野球部は、春の選抜大会東東京大会を順調に勝ち進んで行った。もしかしたら、甲子園に行けるかもしれないと、誰もが思った。
 戸田の調子が良く、強烈なストレートと変化球が自在に決まり、相手の長打を許さなかった。
「イケる、イケるぞこれは!」
僕が喜んでいると、選手たちは笑顔になった。
「瀬那がベンチにいると明るくなっていいな。」
誰かがそう言ってくれた。僕はちょっと感動した。今まで野球をやってきたのは、こうやって野球をやる選手の気持ちとか、野球の事が分かるためだったのだろうと思った。僕は野球選手を支える人になりたい。そのためにどんな職業があるのか、これからいろいろ調べてみようと思った。
「お前はやっぱりマネージャーに向いてるな。」
監督もそう言ってくれた。