「遼悠先輩が引退しちゃって、つまんないねー。」
「どうするぅ?部活辞めちゃうー?」
3年生が引退してしまい、2年生の花梨と綾乃は目的がなくなってしまった。遼悠と一緒にいたいという部活動の目的が。
 二人が部活に出てきていながら、ただ木陰に座って話していると、
-カキーン!
「危ない!」
近くにボールが飛んできて、
「きゃあ!」
二人の女子マネは頭を抱えて悲鳴を上げた。
「すみません、大丈夫ですか?」
1年生の神崎蒼空(かんざき そら)が顔を出した。花梨と綾乃が顔を上げると、蒼空の顔が目の前にあった。
「あ……うん、大丈夫。」
「君が打ったの?」
「はい、すみません。」
そして、蒼空はまたグラウンドに戻っていった。花梨と綾乃はしばらく蒼空の後ろ姿を見送った後、顔を見合わせた。
「ねえ、まだ部活に残ろうよ。」
「うん、そうだね。」
そうして、二人はその後、4番バッター神崎蒼空を追いかけ回す事になるのだった。
「蒼空くん、カッワイイー!」
二人はご機嫌である。

 「瀬那先輩がいなくなっちゃって、つまんないなー。」
芽衣が、ふっとこぼした。
「何なに?芽衣ちゃん、瀬那先輩の事が好きだったの?」
穂高がそう聞いた。
「えー、そういんじゃないけどさ。だって、瀬那先輩には特別な人がいるでしょ。」
「そうなの?」
穂高はきょとんとしている。
「えー、気づいてなかったの?瀬那先輩と遼悠先輩って、特別な関係だったでしょ?」
「は?うっそ、そうなの?いや、それはわかんないでしょ。ただ仲の良い友達だと思ってたし。」
穂高は慌てまくっている。
「そういうあんたは?どっちを狙ってたの?瀬那先輩?それとも遼悠先輩?」
芽衣は意地悪な顔で穂高を見た。
「ぼ、僕は、狙ってなんて、あるわけないでしょ。ないない。」
「そうかなー。瀬那先輩に憧れて入ったって言ってたでしょ。でも、遼悠先輩の手当する時なんて、宝物にでも触れるみたいにしてたしねえ。」
「違うよ、憧れてただけだよ。好きとか、そういうんじゃないって。」
「ふーん。そうなのかぁ。それにしても、あの二人、賭けは終わったけど、この後どうなっちゃうのかなあ。遼悠先輩が、キスは賭けでするもんじゃない、ちゃんと……って言ってたけど、ちゃんと何だったのかなあ。」
芽衣は、かつて3人で帰った時の二人の男の会話をちゃんと聞き取っており、理解していたのであった。
「賭けじゃなくて、ちゃんと?ちゃんと好きになってもらってから、じゃない?」
穂高は、よく分からないのにそう言った。
「そっか。ちゃんと好きになってもらってから、か。瀬那先輩、ちゃんと遼悠先輩の事、好きになったよね。」
「そうでなきゃ、僕だって諦めなかったかもしれないけど……。」
穂高が芽衣に聞こえないくらいの小さい声でそう言った。
「え?何?」
「ううん、何でもない。あはは。」
穂高は笑ってごまかした。穂高は、遼悠の手を取った時の感触を思い出し、その感触を封印するかのように心の奥底にしまった。
「よし、今日も頑張ろう!」
「おっしゃー!」
穂高、芽衣の順でそう言った。東尾学園野球部は、これからも続いていく。

                 完