僕は、暇な日々を過ごしていた。そして、期末テストの答案返却日がやってきた。この日は学校に行かなければならない。そして、翌日は野球部の試合だった。とうとう引退を掛けた予選が始まるのだ。
 1時間目が終わり、休み時間になると、いきなり目の前が白くなった。その白はワイシャツの白。僕の机の回りに、男子生徒がたくさん押し寄せてきたのだ。
「瀬那!」
「瀬那、戻ってきてくれよ!」
野球部員たちだった。申し合わせて来たのだろう。そして、キャプテンの正継が言った。
「瀬那、俺たち一緒に甲子園に行こうって約束しただろ?」
「正継……。」
「瀬那も一緒に、夏の甲子園で一勝しようって、誓ったじゃないか。」
僕は押し黙り、うつむいた。
「お前がいないと、俺たちみんなの士気が下がるんだよ。それに、将太のメンタルもサポートしてくれないと。」
と、正継が続ける。
「え?将太?」
控え投手の2年生。遼悠の怪我の原因となった球を投げた本人だ。
「将太は遼悠を怪我させた事に責任を感じている。お前までいなくなったら、あいつは救われないだろ?将太を励ましてやってくれよ、瀬那。」
正継がそう言った後、他の部員達も口々に、
「そうだよ、瀬那、お前がいないと困るんだよ。」
「一緒に甲子園行こうぜ!」
「ムードメーカーの瀬那がいないと、なんか暗いんだよ。出てきてくれよ!」
などと言った。僕は泣きそうになった。僕なんて、いなくても同じだと思っていたのに、みんな、そんな風に思ってくれていたなんて。
「みんな、ありがとう。でも、僕がいるとダメなんだよ。僕がいると遼悠がまた無茶するから。」
僕がそう言いかけると、
「バカか、お前。思い上がるな。別にお前じゃなくても俺は同じ事をしたんだよ。」
少し離れた所にいた遼悠が、突然そう言った。僕を取り囲んでいた部員達が一斉に遼悠を見たので、道が開けて僕にも遼悠が見えた。
 冷たい目。僕は思い上がっていた?自惚れていたのか?僕の目からは涙が流れ出た。これは悲しいからじゃない。みんなに嬉しい事を言われて、感動したから。僕はそう、思った。思う事にした。
「瀬那、頼むよ。今日からまた一緒にがんばろ?」
僕の後ろに立っていた部員が、僕を後ろから抱きしめた。
「瀬那。」
「瀬那ぁ。」
みんな、口々にそう言って、僕の頭をなでた。僕は唇を噛みしめ、うんうんと何度も頷いた。