だいぶ暑くなってきた。そうなると、熱中症で倒れる1年生が出てくるのだ。
日曜日。校庭での午後練習。あちこちで具合が悪くなる部員が出て、濡らしたタオルを渡したり、飲み物を渡したりと僕は大忙しだった。
そんな中、ふと気がつくと、穂高が遼悠の豆の手当をしていた。がーん、という効果音が聞こえた気がした。いつも僕を呼ぶのに、僕にしてもらいたいって思っているはずなのに、遼悠が穂高を呼んだのだろうか。
悶々としつつも、その日の部活を終え、今日も僕と遼悠は一緒に帰った。
「あのさ、今日、穂高に手当してもらってたよな?」
どう切り出そうかさんざん迷った末、とりあえずこのように尋ねてみた。
「ん?ああ、うん。」
歯切れが悪い、とはいえ、いつもの遼悠の返事だ。読めない。
「お前が穂高を呼んだの?」
変な風に取られると困るので、本当は聞かない方が良かったのだが、どうしても聞きたくて、抑えられなかった。すると、
「あー、どうだったかな。」
なんだよー、勇気を出して聞いたのにー。
「お前さ、もしかして……穂高の事が好きになった、とか?」
精一杯、冷静にそう言ったつもりだ。言った後にも深呼吸をする。すると、なんと遼悠はこんな事を言った。
「そうだと言ったら、どうする?」
絶句。そうなのか?僕の事を、さんざん悩ませておいて、振り回しておいて、こんな風にあっという間に乗り換えるのか?
遼悠が僕の顔を見ているが、次になんて言っていいのか分からず、僕は思わず走り出した。
「お、おい、瀬那?」
遼悠は慌てた声を出したが、もう僕は止まれなかった。僕は走り続けた。苦しい。胸に何かが詰まっている気がする。どうしてこんなに苦しいのだろう。
翌日、部活中も遼悠と会話をせず、しかも一緒に帰らなかった。僕はさっさと最寄り駅から電車に乗って帰宅したのだった。
更にその翌日。僕はずっと胸に何かが詰まっているような感覚が消えなくて、ふさぎ込んでいた。ちょっと暇な授業中、またおとといの遼悠の言葉を思い出していた。
「そうだと言ったら、どうする?」
と言った、あの言葉。遼悠はもう、僕の事よりも穂高の事が好きになったのだ。そう考えると、苦しくて苦しくて、気がつくとノートにポタッと水滴が落ちていた。なんだこれは。汗?それほど暑くもないぞ。まさか、鼻水?それとも涙?
授業が終わって休み時間になると、珍しく遼悠が僕の机の前に立った。部活以外ではほとんど会話もした事がないのに。
「なんで泣いてんだよ。」
遼悠はそう言うと、僕のおでこを指で突いた。
「泣いてなんか……。」
僕は言いかけたが、実際泣いていたみたいなので、それ以上は言えなかった。すると、遼悠は僕の後ろに回り、なんと後ろから僕を抱きしめた。バックハグだ。
「え?」
ぎゅっと抱きしめられて、心臓の辺りがモゾモゾっとした。モゾモゾ?ドキドキ?
「な、に、してんだよ。人が見るだろ。」
僕がそう言っても、遼悠は離れようとしない。
「お前、いつも教室では僕に近づかないじゃんか。なのに、なんで。」
僕がそう言うと、
「いつもは我慢してるんだよ。でも、今は我慢出来ないから。」
耳の近くで遼悠の声がする。こんなの、こんなの、ダメだよー。
ハッとした。女子が何人かこっちを振り返ったりしながらキャッキャしているのが目に入ったのだ。
「人が見てるから!」
僕はそう言うと、遼悠の腕を力尽くで払いのけ、走ってトイレに行った。また逃げたのである。
日曜日。校庭での午後練習。あちこちで具合が悪くなる部員が出て、濡らしたタオルを渡したり、飲み物を渡したりと僕は大忙しだった。
そんな中、ふと気がつくと、穂高が遼悠の豆の手当をしていた。がーん、という効果音が聞こえた気がした。いつも僕を呼ぶのに、僕にしてもらいたいって思っているはずなのに、遼悠が穂高を呼んだのだろうか。
悶々としつつも、その日の部活を終え、今日も僕と遼悠は一緒に帰った。
「あのさ、今日、穂高に手当してもらってたよな?」
どう切り出そうかさんざん迷った末、とりあえずこのように尋ねてみた。
「ん?ああ、うん。」
歯切れが悪い、とはいえ、いつもの遼悠の返事だ。読めない。
「お前が穂高を呼んだの?」
変な風に取られると困るので、本当は聞かない方が良かったのだが、どうしても聞きたくて、抑えられなかった。すると、
「あー、どうだったかな。」
なんだよー、勇気を出して聞いたのにー。
「お前さ、もしかして……穂高の事が好きになった、とか?」
精一杯、冷静にそう言ったつもりだ。言った後にも深呼吸をする。すると、なんと遼悠はこんな事を言った。
「そうだと言ったら、どうする?」
絶句。そうなのか?僕の事を、さんざん悩ませておいて、振り回しておいて、こんな風にあっという間に乗り換えるのか?
遼悠が僕の顔を見ているが、次になんて言っていいのか分からず、僕は思わず走り出した。
「お、おい、瀬那?」
遼悠は慌てた声を出したが、もう僕は止まれなかった。僕は走り続けた。苦しい。胸に何かが詰まっている気がする。どうしてこんなに苦しいのだろう。
翌日、部活中も遼悠と会話をせず、しかも一緒に帰らなかった。僕はさっさと最寄り駅から電車に乗って帰宅したのだった。
更にその翌日。僕はずっと胸に何かが詰まっているような感覚が消えなくて、ふさぎ込んでいた。ちょっと暇な授業中、またおとといの遼悠の言葉を思い出していた。
「そうだと言ったら、どうする?」
と言った、あの言葉。遼悠はもう、僕の事よりも穂高の事が好きになったのだ。そう考えると、苦しくて苦しくて、気がつくとノートにポタッと水滴が落ちていた。なんだこれは。汗?それほど暑くもないぞ。まさか、鼻水?それとも涙?
授業が終わって休み時間になると、珍しく遼悠が僕の机の前に立った。部活以外ではほとんど会話もした事がないのに。
「なんで泣いてんだよ。」
遼悠はそう言うと、僕のおでこを指で突いた。
「泣いてなんか……。」
僕は言いかけたが、実際泣いていたみたいなので、それ以上は言えなかった。すると、遼悠は僕の後ろに回り、なんと後ろから僕を抱きしめた。バックハグだ。
「え?」
ぎゅっと抱きしめられて、心臓の辺りがモゾモゾっとした。モゾモゾ?ドキドキ?
「な、に、してんだよ。人が見るだろ。」
僕がそう言っても、遼悠は離れようとしない。
「お前、いつも教室では僕に近づかないじゃんか。なのに、なんで。」
僕がそう言うと、
「いつもは我慢してるんだよ。でも、今は我慢出来ないから。」
耳の近くで遼悠の声がする。こんなの、こんなの、ダメだよー。
ハッとした。女子が何人かこっちを振り返ったりしながらキャッキャしているのが目に入ったのだ。
「人が見てるから!」
僕はそう言うと、遼悠の腕を力尽くで払いのけ、走ってトイレに行った。また逃げたのである。