「お前さ、なんか嬉しそうじゃない?」
家で、海斗がいきなりそう言った。
「な、なんだよ。べつに何も嬉しくなんかないよ。」
岳斗はそう言いつつ、自分でも少し自覚している。恋をしてしまったから、世の中がバラ色なのだ。明日は部活があるから、萌に会えると思うと、自然と顔がにやけてしまう。ハッとして海斗を見ると、海斗はそんな岳斗のにやけ顔をジトーッとした目で見ていた。岳斗は取り繕うべく、何か言おうとして、やっぱりこういう時は恋の話が出てしまうもので。
「海斗はさ、彼女とかいないの?」
などと言ってしまう。すると、間髪入れずに返された。
「そんな暇あると思うか?」
と。確かに。電話やメッセージのやり取りさえも、している余裕はなさそうだ。ましてやデートなど、出来そうもない。サッカー部には女子がいないし、マネージャーは、希望者が殺到し過ぎるから募集していないそうだ。
「お前は……できたのかよ?」
遠慮がちに、海斗が尋ねる。
「え?い、いや、まだだよ。」
いない、ではなく、まだ、と言ってしまったのが失敗だった、と岳斗は思った。これからできそうだ、と言っているような感じになってしまった。萌とはいい感じではあるが、まだ付き合えるかどうかは分からない。夏休みまでにはそうなっているといいな、くらいには思っている岳斗ではあるが。
「ふうん。」
海斗はそう言って、まだ岳斗をジロジロ見ていた。岳斗は気恥ずかしくなって逃げた。
翌日、岳斗が部活でトレーニングをしていると、一階の渡り廊下の所に、海斗がいた。待ち伏せしていたようだった。そして、岳斗にではなく、一緒に歩いていた萌の方に話しかけたのだ。
「君、萌ちゃんだっけ。岳斗が仲良くしてもらってるそうだね。よろしくね。」
岳斗は、海斗が女の子に話しかけるところを初めて見た、と思った。そんな事をしたら、見ている女子が悲鳴を上げる。が、幸いここには誰もいなくて、悲鳴は上がらなかった。だが、海斗にあんな笑顔で話し掛けられたら、萌は……。いや、萌ちゃんは大丈夫だ、きっと大丈夫だ、と岳斗は思った。
「萌ちゃん?大丈夫?」
海斗がじゃあね、と手を振って去り、背中を見送ったところで、岳斗は萌の方を恐る恐る振り返った。すると、
「キャー、私、どうしよう!」
と、顔が真っ赤。両手を頬に当て、顔をフリフリさせている。やっぱり、そうなるか。それにしても、なぜ海斗は萌にあんな事を言ったのか。しかもわざわざ待ち伏せしてまで。まさか……。
(まさか、俺の恋路を邪魔するために?)
いや、そうとしか考えられない、と岳斗は思った。海斗は、自分に彼女がいないのに、岳斗に彼女ができる事が許せなかったに違いない。そうだ、かつて岳斗に彼女が出来た時にも、あれはバッタリ会ったのではなく、海斗は待ち伏せしていたのかもしれない。きっとそうだ、と岳斗は思い至ってしまった。なんてひどい事を。ただでさえ海斗のせいで散々な目に遭っているというのに、この仕打ちは許せない。
萌はすっかり海斗のファンになった。この日の帰り道、萌から海斗の事をあれこれ聞かれた岳斗。もう、海斗の話題しか上がらない。岳斗はすっかり興ざめだった。
(いいよ、俺には当分恋愛なんか。だが、それでも海斗の事は許せない。)
帰宅し、海斗が帰って来るまで、岳斗はずっとイライラしていた。海斗が帰ってきて、自分で二階まで上がって来た時、岳斗は自分の部屋を飛び出して行って、海斗にかみついた。
「海斗、今日のあれはなんだよ!お前、わざと俺の邪魔したんだろ!」
海斗は立ち止まったが、何も言い返さなかった。
「今までもそうなんだろ?俺の恋愛がうまく行かないように、邪魔してたんだろ。お前、自分に彼女がいないからって、いい加減にしろよ!モテるからって調子に乗るなよな!」
岳斗は我慢できなくなって、日頃の鬱憤も一気に吐き出すかのように、怒鳴って、そして海斗の体をドンとどついた。海斗はよろけて自分の部屋に入り、そのままベッドに倒れた。
「もう、お前とは口も利きたくない!顔も見たくない!」
岳斗はそう言い放ち、自分の部屋へ入ってバタンと勢いよくドアを閉めた。こんなに海斗に怒鳴ったのはいつ以来だろう、と岳斗は考えた。海斗と岳斗はほとんど喧嘩をした事がない。何でも海斗が許してくれるし、岳斗もあまりわがままを言った事がないのだ。だが、今回は許さない、許さないぞ、と岳斗は何度も自分に言い聞かせた。
家で、海斗がいきなりそう言った。
「な、なんだよ。べつに何も嬉しくなんかないよ。」
岳斗はそう言いつつ、自分でも少し自覚している。恋をしてしまったから、世の中がバラ色なのだ。明日は部活があるから、萌に会えると思うと、自然と顔がにやけてしまう。ハッとして海斗を見ると、海斗はそんな岳斗のにやけ顔をジトーッとした目で見ていた。岳斗は取り繕うべく、何か言おうとして、やっぱりこういう時は恋の話が出てしまうもので。
「海斗はさ、彼女とかいないの?」
などと言ってしまう。すると、間髪入れずに返された。
「そんな暇あると思うか?」
と。確かに。電話やメッセージのやり取りさえも、している余裕はなさそうだ。ましてやデートなど、出来そうもない。サッカー部には女子がいないし、マネージャーは、希望者が殺到し過ぎるから募集していないそうだ。
「お前は……できたのかよ?」
遠慮がちに、海斗が尋ねる。
「え?い、いや、まだだよ。」
いない、ではなく、まだ、と言ってしまったのが失敗だった、と岳斗は思った。これからできそうだ、と言っているような感じになってしまった。萌とはいい感じではあるが、まだ付き合えるかどうかは分からない。夏休みまでにはそうなっているといいな、くらいには思っている岳斗ではあるが。
「ふうん。」
海斗はそう言って、まだ岳斗をジロジロ見ていた。岳斗は気恥ずかしくなって逃げた。
翌日、岳斗が部活でトレーニングをしていると、一階の渡り廊下の所に、海斗がいた。待ち伏せしていたようだった。そして、岳斗にではなく、一緒に歩いていた萌の方に話しかけたのだ。
「君、萌ちゃんだっけ。岳斗が仲良くしてもらってるそうだね。よろしくね。」
岳斗は、海斗が女の子に話しかけるところを初めて見た、と思った。そんな事をしたら、見ている女子が悲鳴を上げる。が、幸いここには誰もいなくて、悲鳴は上がらなかった。だが、海斗にあんな笑顔で話し掛けられたら、萌は……。いや、萌ちゃんは大丈夫だ、きっと大丈夫だ、と岳斗は思った。
「萌ちゃん?大丈夫?」
海斗がじゃあね、と手を振って去り、背中を見送ったところで、岳斗は萌の方を恐る恐る振り返った。すると、
「キャー、私、どうしよう!」
と、顔が真っ赤。両手を頬に当て、顔をフリフリさせている。やっぱり、そうなるか。それにしても、なぜ海斗は萌にあんな事を言ったのか。しかもわざわざ待ち伏せしてまで。まさか……。
(まさか、俺の恋路を邪魔するために?)
いや、そうとしか考えられない、と岳斗は思った。海斗は、自分に彼女がいないのに、岳斗に彼女ができる事が許せなかったに違いない。そうだ、かつて岳斗に彼女が出来た時にも、あれはバッタリ会ったのではなく、海斗は待ち伏せしていたのかもしれない。きっとそうだ、と岳斗は思い至ってしまった。なんてひどい事を。ただでさえ海斗のせいで散々な目に遭っているというのに、この仕打ちは許せない。
萌はすっかり海斗のファンになった。この日の帰り道、萌から海斗の事をあれこれ聞かれた岳斗。もう、海斗の話題しか上がらない。岳斗はすっかり興ざめだった。
(いいよ、俺には当分恋愛なんか。だが、それでも海斗の事は許せない。)
帰宅し、海斗が帰って来るまで、岳斗はずっとイライラしていた。海斗が帰ってきて、自分で二階まで上がって来た時、岳斗は自分の部屋を飛び出して行って、海斗にかみついた。
「海斗、今日のあれはなんだよ!お前、わざと俺の邪魔したんだろ!」
海斗は立ち止まったが、何も言い返さなかった。
「今までもそうなんだろ?俺の恋愛がうまく行かないように、邪魔してたんだろ。お前、自分に彼女がいないからって、いい加減にしろよ!モテるからって調子に乗るなよな!」
岳斗は我慢できなくなって、日頃の鬱憤も一気に吐き出すかのように、怒鳴って、そして海斗の体をドンとどついた。海斗はよろけて自分の部屋に入り、そのままベッドに倒れた。
「もう、お前とは口も利きたくない!顔も見たくない!」
岳斗はそう言い放ち、自分の部屋へ入ってバタンと勢いよくドアを閉めた。こんなに海斗に怒鳴ったのはいつ以来だろう、と岳斗は考えた。海斗と岳斗はほとんど喧嘩をした事がない。何でも海斗が許してくれるし、岳斗もあまりわがままを言った事がないのだ。だが、今回は許さない、許さないぞ、と岳斗は何度も自分に言い聞かせた。