新学期には、あれこれと学校に提出する書類がある。高校生になったのだから自分で書きなさいと親に言われ、岳斗は家庭調査書や健康調査書、緊急連絡先などの書類を自分で書いていた。
 保健調査書の記入をしていたら、家族の血液型を書く欄があった。気が付いてみたら、岳斗は自分がA型だという事以外、知らなかった。そこで、家族にそれぞれ聞いてみた。そうしたら、不可解だった。父の隆二はO型。母の洋子はB型。海斗はB型。おかしい。O型とB型の両親からA型は生まれない、と中学の理科で習った。本当に自分はA型なのか、おかしいではないか、と岳斗は首を傾げた。
 こういう事を、親に聞いてはいけない気がした岳斗は、海斗に聞く事にした。聞くというより、相談すると言った方がいいか。
「海斗、ちょっと聞きたい事があるんだけど。」
「なに?いいよ。」
平日の夜。風呂に入った後で、比較的海斗が忙しくなさそうな時間だ。
「俺の血液型って、A型だよね?間違ってるって事あるかな?」
岳斗がそう言うと、海斗はじっと岳斗の顔を見た。
「なに?俺変な事言ってる?」
岳斗が言うと、海斗はまだ不思議顔で、
「いや、お前はA型だよ。」
と答えた。
「だよね。でもさ、父さんがO型で母さんがB型だって言うんだよ。そのどちらかが間違ってるのかな。だってさ、O型とB型の間にA型は生まれないじゃん。」
岳斗がそう言うと、海斗はそれこそ動きを止めた。
「どうしたの?」
岳斗が問いかけても、海斗は動かない。岳斗が海斗の顔の前で手をヒラヒラさせると、海斗は改めて岳斗の顔を見た。
「お前、覚えてないのか?」
と、海斗が言った。
「何を?」
「あ、いや……。あ、あれだよ。父さんはA型だよ。ほら、ばあちゃんがO型だったからさ、生まれたばっかりの時に検査してもらったらO型って出てたんだけど、大人になってから検査したら本当はA型だったんだよ。それを父さんが忘れちゃってるんだ。俺、ちょっと父さんに言ってくるわ。」
と、海斗にしては珍しく早口で言って、ダダダダッと階段を降りて行った。隆二に何か言いに行った後で戻ってくると、
「岳斗、父さんはA型だって思い出したよ。A型と書いておけ、な。」
海斗はそう言って岳斗の肩をポンと叩いた。
 何かがおかしい、と岳斗は思った。海斗の言動は不可解だ。「覚えてないのか?」と言った時の海斗の顔を思い出す。あまりにも驚いたような顔をしていて、ちょっとした事―父親の血液型の事―を忘れていたくらいの事でそんな顔はしないような気がした。
(俺、何か重要な事を忘れているのか?でも、そんな事言ったって何を思い出せばいいのかも分からないし……。)

 その夜、岳斗は夢を見た。海斗が自分の頭を撫でる。海斗はまだ子供だ。岳斗はなぜかとても悲しくて、寂しくて、海斗に抱き着いた。海斗は頭を撫でてくれる。そうすると、気持ちが落ち着いた。自分はここにいていいのだ、そう思った。