やっと日曜日が来た。岳斗にとって、この一週間は長かった。海斗は昼近くまで寝ていて、昼前に髪の毛がボサボサの状態で起きてきた。岳斗はそれを見た瞬間、笑った。
「ん?なんだよ、おい。」
海斗は笑いながらそう言って、岳斗の頭に自分の頭をぐりぐり押し付けた。
「あははは、やめろよ。」
岳斗は笑いながら押し返した。
「岳斗、学校どうだ?友達できたか?」
海斗の方から話を始めた。
「うん。」
「部活は?バド部に入るのか?」
「いや、まだ決めてないけど……運動部には入らないと思う。」
岳斗がそう言うと、海斗はソファに腰かけ、隣に座るようにとポンポンソファを叩いた。岳斗も海斗の隣に座る。
「いっそサッカー部に入るか、ん?」
海斗は、岳斗の方に首を向けて、そんな事を言った。
「まさか。」
「マネージャーとかは?」
「俺がマネージャー?部員ががっかりするだろ。」
岳斗は鼻で笑った。海斗も冗談で言ったのだろうと思ったのだ。
「そっか。それならまあ。部活には無理に入らなくてもいいし。」
海斗がそう言ったので、岳斗は海斗の方を見た。何が言いたいのか。
「お前はうちにいろ。」
そう言って、海斗は岳斗の頭を撫でた。ふざけている感じではなく、ひたすら岳斗の頭を撫でている。誰も見ていないので、岳斗も特に嫌がらずにされるがまま、じっとしていた。
「海斗?」
「うん?」
「なんで、そんな事してんの?」
岳斗がそう言うと、海斗は手を止めてじっと岳斗を見た。
 そこへ、洋子が入って来た。
「お昼、何にしよっかー。」
すると、海斗はさっと手を引っ込めて、立ち上がった。
「着替えてくる。」
海斗はそう言って、自分の部屋へ戻って行った。

 家族で昼食を囲む。海斗は至って普通だった。岳斗は、もしかして何か悩みでもあるのではないか、と思ったのだが、取り越し苦労だったようだ。海斗は普段勉強する時間がないので、日曜日に宿題やら予習やらをやらなければならない。午後は、岳斗は独り、部屋で過ごした。
 夕方になると勉強を終えた海斗が、部屋でギターを弾き始めた。全く忙しい人だ、と岳斗は思った。すると、岳斗のSNSが活発になってきた。
「お兄さん、今家にいるの?」
「お兄さん、何してるのかな?」
もう、この人達をブロックしてしまおうかと岳斗は考えた。だが、先輩だから角が立つと怖いような気もする。海斗に相談するかどうか、迷う。何となく、家族の間でこういう話はタブーだった。海斗がモテるとか、そういう話は家ではしない。本人にも言わない。だから、相談もしにくい。
 岳斗は、最後にと思い、
「兄は今、部屋でギターを弾いています。」
と教えてやり、相手のアカウントをブロックした。
(海斗にも、早く決まった人が出来ればいいのに。そうしたら、こういった煩わしい事もなくなるだろう。俺にも普通の恋愛ができるかもしれない。)
そう考えた岳斗だったが、はて、普通の恋愛とは。想像がつかなかった。そして、海斗に恋人ができるという事も、これもなんだか想像できないのであった。