正月も、坂上は仕事だった。なので、岳斗は例年通り、城崎の家族と共に初詣に行き、親戚の家を回った。隆二の運転する車に乗り、後部座席に海斗と岳斗が二人で乗る。バックミラー越しに見られている気がして、あまりくっついて座るのは気が引けた。
 こうしていると、岳斗には一年前と何も変わらないように思えた。親戚には岳斗が引っ越した事も、海斗との関係が変わった事も、もちろん話していない。いつも通り新年の挨拶をして、お年玉をもらった。親戚の家を回った後、車に乗っていると海斗が眠った。海斗はだいたいいつも無理をしているので、車に乗るとすぐに眠ってしまう。今日はここまで眠らなかったのが珍しいくらいだった。
 海斗ははじめ、シートに上向きに寝ていたが、車が揺れて岳斗の肩に頭が乗った。バックミラーから見られる、と岳斗は思ったが、出来ればこのままにしておきたいと、とっさに岳斗も眠ったフリをした。海斗の方に頭を寄りかからせる。目を閉じていると、眠っているのか眠っていないのか、自分でも分からないような不思議な感覚に陥った。
「寝ちゃったわね。」
洋子が話しているのが、岳斗にも何となく聞こえた。
「出来ればずっと、こうしていたかったのになあ。」
隆二が言う。更に、
「何を間違ってしまったんだろうな。」
とも言った。
「間違えたわけではないわ。うちで引き取る前から、あの二人は魅かれ合っていたもの。もし岳斗を引き取らなかったとしても、いずれこうなる運命だったのよ。」
洋子が言った。
 運命……。母親同士が親友だった事、その母親同士が出会ったのも、運命のなせる業なのか。岳斗が目を閉じて考えていると、海斗の手がダランと落ちてきて、岳斗の手に当たった。そうしたら、そのまま岳斗の手を握るではないか。こいつ起きてるな、と岳斗は思った。だが、岳斗もそのまま眠っているフリを続けた。
 岳斗は家の前まで送ってもらい、三人に別れを告げた。アパートの灯りが点いていた。岳斗はお土産におせち料理をもらって、家の中に入った。殺風景な部屋。小さいテレビを見ながら、坂上が酒を飲んでいた。おせち料理をちゃぶ台に乗せると、
「お、有難い。」
と言って、坂上が手づかみで一つつまんで口に入れる。
 泣くな、と自分を鼓舞しつつ、岳斗は端っこの壁に寄りかかって、スマホを眺めた。