「岳斗、ごめんなさいね。私がついていながら、こんな事になってしまって。」
洋子が涙を流しながら岳斗に謝った。岳斗はなるべく笑顔を作り、首を横に振った。
「いい、何かあったらすぐに連絡するのよ。我慢しないでね。それから、たまには遊びに来てね。海斗と会うだけじゃなくて、私にも会いに来てよ。それから、毎日お弁当は作るからね。海斗に持たせるから。」
洋子に見送られながら、岳斗は家を出た。海斗が荷物を一緒に持って岳斗を送って行った。狭いアパートに引っ越すのだから、家具を持っていく事は出来ない。洋服と勉強道具だけをとりあえず持っての引っ越しだった。
「まさか、本当にお前の言った通りになるとはな。」
海斗がまだふくれ面のまま、そう言った。恋人同士なのがバレたら、一緒には暮らせないだろうと岳斗は予言していたのだ。
「でも助かったよ。今まで通り学校にも通えるし、学費や生活費も城崎家で面倒見てくれるんだから。」
「当たり前だろ、お前は城崎家の子供なんだから。それにしても、これからは毎日学校で会うのを楽しみにするしかないんだな。あーあ。あ、そうだ、弁当を渡して、空の弁当箱も持って帰るわけだから、昼休みに一緒に弁当を食う事にしようぜ、な。」
と、海斗が言った。本当に、救われる。そう岳斗は思った。学校で海斗に会えるのだから。
「うん。」
岳斗の気持ちは少し明るくなった。
そうして岳斗の新しい生活は、突如として始まった。岳斗の父親は、日雇いの仕事ではあるが、一応働いてはいた。家賃を払ってもらえる事になり、その上食費も振り込まれて、かなり上機嫌だった。
「お前はいいところにもらわれたなあ。いい子だ、いい子だ。」
などと言う。今までのベッドではなく、新しく買ってもらった布団を敷いて寝た岳斗は、急に夢から覚めて、貧乏暮らしに戻ったような気がした。お金の苦労はさせないと両親が言ってくれたが、まずこの粗末なアパートで寝起きする事が、みじめな気分だった。いやいや、贅沢を言ってはいけない、と岳斗は思う。自分は、あの超イケメンのスーパースターを恋人にしたのだから。その代償なのだから仕方がない、と思うのだった。
学校へ行くと、いつもの日常が戻ってホッとした岳斗だが、昼休みになった時、今までとは違う学校生活が始まった事を実感した。
「岳斗、お前の兄貴が来たんじゃないか?」
と、栗田が言った。
「え?」
教室のドアを振り返ったが、海斗はいない。けれども、遠くからキャー!という女子の悲鳴が聞こえて来た。なるほど、その通りだ。教室に来られては混乱すると思った岳斗は、こちらから出迎えようと、早速立ち上がった。すると、
「俺も、海斗様のお顔を拝見しようかな。」
と言って栗田が腰を浮かす。
「俺も。」
金子までもが。すると、笠原が何も言わずに立ち上がった。
「お前は毎日部活で見てるだろ。」
と、栗田が笠原に突っ込みを入れた。
「まあね、毎日生着替えも拝見してるよ。」
笠原が、そう言って親指を立てた。今となっては無性に羨ましく思う岳斗である。
そうこうしている内に、悲鳴がどんどん近づいてきた。岳斗たちは急いでドアのところへ行った。が、もう他の女子たちも急いで廊下へ出ようとしていて渋滞していた。何とかその渋滞から抜け出して廊下に出ると、海斗がこちらへ歩いて来るのが見えた。大勢の人がひしめき合っている廊下で、海斗は他の人など目に入っていないかのように、岳斗を見て微笑んだ。走って行って抱きつきたい衝動に駆られる岳斗。だが、まさかそんな事は出来ない。それでも、岳斗は急ぎ足で海斗の元へ歩いて行った。
「岳斗、お待たせ。そんなに腹が減ってるのか?」
岳斗が海斗の前へ到着すると、海斗はそんな事を言って岳斗の肩を抱いた。
「そ、そうだよ。もう腹ペコ。母さんの料理が恋しくて。」
岳斗は目一杯意地を張った。
普段あまり人のいない場所を選んで、二人で弁当を広げた。中身の全く同じ弁当。海斗の分だけでも大変なのに、岳斗の分まで朝練時間に作ってくれた洋子。岳斗は感謝の意を込めて、いつもよりも長く手を合わせて「いただきます」と言った。
弁当を食べ終え、二人で並んで座っていると、徐々に見物人が増えてくる。遠巻きに見てはキャピキャピ言っている女子が多数。
「岳斗、夕べはちゃんと眠れたか?」
「うん。」
「あの人は、どうだった?怖くないか?」
「大丈夫だよ。」
「そっか。」
海斗が岳斗の頭を撫でた。岳斗が海斗の顔を見る。見つめ合うと、
「キャー!」
と、どこからか悲鳴が。これだから学校は落ち着かない、と岳斗は内心ため息をつく。
「やっぱ、学校だとあれだな。何もできないな。」
流石の海斗も他人の目を気にして、チラッと周りを見た。
「うん。」
「お前……そんな目で俺を見るなよ。我慢できなくなるだろ。」
という海斗のセリフに、岳斗は驚いた。
(え?どんな目で見たって?)
すると海斗は、
「こうなったら、周りなんて気にせずに。」
と言うや否や、岳斗に覆いかぶさって来た。
「え?ぎゃー、やめろって。」
岳斗が海斗の体を押し返すと、海斗は笑いながら顔をどんどん近づけてくる。岳斗も思わず笑いながら逃げる。二人でワハハハと笑い合い、取っ組み合いのような事をした。傍目には、仲の良い兄弟に見えたかもしれない。そして、どさくさに紛れて、海斗は岳斗の頬にキスをした。見られていない事を祈る岳斗であった。
洋子が涙を流しながら岳斗に謝った。岳斗はなるべく笑顔を作り、首を横に振った。
「いい、何かあったらすぐに連絡するのよ。我慢しないでね。それから、たまには遊びに来てね。海斗と会うだけじゃなくて、私にも会いに来てよ。それから、毎日お弁当は作るからね。海斗に持たせるから。」
洋子に見送られながら、岳斗は家を出た。海斗が荷物を一緒に持って岳斗を送って行った。狭いアパートに引っ越すのだから、家具を持っていく事は出来ない。洋服と勉強道具だけをとりあえず持っての引っ越しだった。
「まさか、本当にお前の言った通りになるとはな。」
海斗がまだふくれ面のまま、そう言った。恋人同士なのがバレたら、一緒には暮らせないだろうと岳斗は予言していたのだ。
「でも助かったよ。今まで通り学校にも通えるし、学費や生活費も城崎家で面倒見てくれるんだから。」
「当たり前だろ、お前は城崎家の子供なんだから。それにしても、これからは毎日学校で会うのを楽しみにするしかないんだな。あーあ。あ、そうだ、弁当を渡して、空の弁当箱も持って帰るわけだから、昼休みに一緒に弁当を食う事にしようぜ、な。」
と、海斗が言った。本当に、救われる。そう岳斗は思った。学校で海斗に会えるのだから。
「うん。」
岳斗の気持ちは少し明るくなった。
そうして岳斗の新しい生活は、突如として始まった。岳斗の父親は、日雇いの仕事ではあるが、一応働いてはいた。家賃を払ってもらえる事になり、その上食費も振り込まれて、かなり上機嫌だった。
「お前はいいところにもらわれたなあ。いい子だ、いい子だ。」
などと言う。今までのベッドではなく、新しく買ってもらった布団を敷いて寝た岳斗は、急に夢から覚めて、貧乏暮らしに戻ったような気がした。お金の苦労はさせないと両親が言ってくれたが、まずこの粗末なアパートで寝起きする事が、みじめな気分だった。いやいや、贅沢を言ってはいけない、と岳斗は思う。自分は、あの超イケメンのスーパースターを恋人にしたのだから。その代償なのだから仕方がない、と思うのだった。
学校へ行くと、いつもの日常が戻ってホッとした岳斗だが、昼休みになった時、今までとは違う学校生活が始まった事を実感した。
「岳斗、お前の兄貴が来たんじゃないか?」
と、栗田が言った。
「え?」
教室のドアを振り返ったが、海斗はいない。けれども、遠くからキャー!という女子の悲鳴が聞こえて来た。なるほど、その通りだ。教室に来られては混乱すると思った岳斗は、こちらから出迎えようと、早速立ち上がった。すると、
「俺も、海斗様のお顔を拝見しようかな。」
と言って栗田が腰を浮かす。
「俺も。」
金子までもが。すると、笠原が何も言わずに立ち上がった。
「お前は毎日部活で見てるだろ。」
と、栗田が笠原に突っ込みを入れた。
「まあね、毎日生着替えも拝見してるよ。」
笠原が、そう言って親指を立てた。今となっては無性に羨ましく思う岳斗である。
そうこうしている内に、悲鳴がどんどん近づいてきた。岳斗たちは急いでドアのところへ行った。が、もう他の女子たちも急いで廊下へ出ようとしていて渋滞していた。何とかその渋滞から抜け出して廊下に出ると、海斗がこちらへ歩いて来るのが見えた。大勢の人がひしめき合っている廊下で、海斗は他の人など目に入っていないかのように、岳斗を見て微笑んだ。走って行って抱きつきたい衝動に駆られる岳斗。だが、まさかそんな事は出来ない。それでも、岳斗は急ぎ足で海斗の元へ歩いて行った。
「岳斗、お待たせ。そんなに腹が減ってるのか?」
岳斗が海斗の前へ到着すると、海斗はそんな事を言って岳斗の肩を抱いた。
「そ、そうだよ。もう腹ペコ。母さんの料理が恋しくて。」
岳斗は目一杯意地を張った。
普段あまり人のいない場所を選んで、二人で弁当を広げた。中身の全く同じ弁当。海斗の分だけでも大変なのに、岳斗の分まで朝練時間に作ってくれた洋子。岳斗は感謝の意を込めて、いつもよりも長く手を合わせて「いただきます」と言った。
弁当を食べ終え、二人で並んで座っていると、徐々に見物人が増えてくる。遠巻きに見てはキャピキャピ言っている女子が多数。
「岳斗、夕べはちゃんと眠れたか?」
「うん。」
「あの人は、どうだった?怖くないか?」
「大丈夫だよ。」
「そっか。」
海斗が岳斗の頭を撫でた。岳斗が海斗の顔を見る。見つめ合うと、
「キャー!」
と、どこからか悲鳴が。これだから学校は落ち着かない、と岳斗は内心ため息をつく。
「やっぱ、学校だとあれだな。何もできないな。」
流石の海斗も他人の目を気にして、チラッと周りを見た。
「うん。」
「お前……そんな目で俺を見るなよ。我慢できなくなるだろ。」
という海斗のセリフに、岳斗は驚いた。
(え?どんな目で見たって?)
すると海斗は、
「こうなったら、周りなんて気にせずに。」
と言うや否や、岳斗に覆いかぶさって来た。
「え?ぎゃー、やめろって。」
岳斗が海斗の体を押し返すと、海斗は笑いながら顔をどんどん近づけてくる。岳斗も思わず笑いながら逃げる。二人でワハハハと笑い合い、取っ組み合いのような事をした。傍目には、仲の良い兄弟に見えたかもしれない。そして、どさくさに紛れて、海斗は岳斗の頬にキスをした。見られていない事を祈る岳斗であった。