八月の初頭に洋子の母、つまり岳斗の祖母の十三回忌があった。岳斗に祖母の記憶はない。親戚の集まりには、最近は部活だの受験だのと言ってほとんど行っていなかったので、祖父や叔父、伯母たちに会うのは久しぶりだった。
「まあ、二人とも大きくなったわねえ。」
「立派になったなあ。」
滅多に姿を見せなかった海斗と岳斗が姿を見せると、親戚中が大騒ぎだった。岳斗は目立つのが苦手なので、こういうのも苦手だった。
法要を済ませ、食事会になった。親戚においても海斗は大叔母たち、つまり祖母の妹たちに大人気で、呼ばれてお酌をさせられ、そのまま捕まっていた。岳斗が自分の席で食事をしていると、前に座っていた大叔父二人が、岳斗に話しかけてきた。
「岳斗くんも、立派になったねえ。」
「もう七年?八年になるかな、お母さんが亡くなって。」
「もうそんなになるかね。洋子ちゃんも偉いよねえ、いくら親友の子って言っても、なかなかよそ様の子を引き取って育てるなんざ、出来るもんじゃないよ。」
「そうだよなあ。」
岳斗に話しかけておきながら、大叔父たちは二人で話していた。岳斗には、大叔父たちが何の話をしているのか、よく分からなかった。けれども、洋子ちゃんというのは自分たちの母親の事だから、全く知らない他人の話をされたわけでもなさそうだ。
(母さんがよその子を引き取った?お母さんが亡くなって八年?八年前というと、俺が七歳か。七歳の頃って何してたっけ。小学校二年生くらいか……。)
考えてみても、岳斗に小学校二年生の記憶はほとんどなかった。入学式は、と考えてみたが、小学校入学の記憶は、探してもどこにもない。そういうものだろうか。
「岳斗、ちょっと来い。」
大叔父たちの話を半分聞きながら、物思いに耽っていた岳斗の腕を、海斗が引っ張った。岳斗は立ち上がり、海斗の後に着いて部屋を出た。
靴を履いて外に出て、海斗と岳斗は大きな木がある場所へと歩いてきた。岳斗の頭の中は、さっきの大叔父たちの話がぐるぐる回っていた。お母さんが亡くなって?洋子ちゃんが引き取った?
「岳斗。岳斗、大丈夫か?」
海斗に肩をゆすられ、岳斗はハッとした。
「海斗、俺、小学校の入学式の記憶がないんだ。考えてみたら、どこの幼稚園だったかも分からないぞ。それって普通なのか?俺、俺……。」
ふと、体育祭の時にどこぞの先輩から言われた言葉が、岳斗の頭をよぎった。
(全然兄貴に似てないなーああそれか、お前、もらわれっ子なんじゃないのか?)
もらわれっ子?
(洋子ちゃんも偉いよね―よそ様の子を引き取って育てるなんざ―)
岳斗はドキリとした。心臓が飛び跳ねたかと思った。その後、岳斗の胸の奥に、ドーンと重たいものが落ちてきた。思い出せない事ばかりだが、自分はどうやら八年前に城崎家に引き取られたのだ。どうして覚えていないのだろう。その前は、自分はどうしていたのか。
「岳斗、何も思い出さなくていいんだ!お前は、今のままでいいんだよ。」
海斗はそう言うと、岳斗の事を抱きしめた。ギューッと抱きしめるので、岳斗は苦しかった。苦しい。胸が苦しい。涙が出そうだ。
「まあ、二人とも大きくなったわねえ。」
「立派になったなあ。」
滅多に姿を見せなかった海斗と岳斗が姿を見せると、親戚中が大騒ぎだった。岳斗は目立つのが苦手なので、こういうのも苦手だった。
法要を済ませ、食事会になった。親戚においても海斗は大叔母たち、つまり祖母の妹たちに大人気で、呼ばれてお酌をさせられ、そのまま捕まっていた。岳斗が自分の席で食事をしていると、前に座っていた大叔父二人が、岳斗に話しかけてきた。
「岳斗くんも、立派になったねえ。」
「もう七年?八年になるかな、お母さんが亡くなって。」
「もうそんなになるかね。洋子ちゃんも偉いよねえ、いくら親友の子って言っても、なかなかよそ様の子を引き取って育てるなんざ、出来るもんじゃないよ。」
「そうだよなあ。」
岳斗に話しかけておきながら、大叔父たちは二人で話していた。岳斗には、大叔父たちが何の話をしているのか、よく分からなかった。けれども、洋子ちゃんというのは自分たちの母親の事だから、全く知らない他人の話をされたわけでもなさそうだ。
(母さんがよその子を引き取った?お母さんが亡くなって八年?八年前というと、俺が七歳か。七歳の頃って何してたっけ。小学校二年生くらいか……。)
考えてみても、岳斗に小学校二年生の記憶はほとんどなかった。入学式は、と考えてみたが、小学校入学の記憶は、探してもどこにもない。そういうものだろうか。
「岳斗、ちょっと来い。」
大叔父たちの話を半分聞きながら、物思いに耽っていた岳斗の腕を、海斗が引っ張った。岳斗は立ち上がり、海斗の後に着いて部屋を出た。
靴を履いて外に出て、海斗と岳斗は大きな木がある場所へと歩いてきた。岳斗の頭の中は、さっきの大叔父たちの話がぐるぐる回っていた。お母さんが亡くなって?洋子ちゃんが引き取った?
「岳斗。岳斗、大丈夫か?」
海斗に肩をゆすられ、岳斗はハッとした。
「海斗、俺、小学校の入学式の記憶がないんだ。考えてみたら、どこの幼稚園だったかも分からないぞ。それって普通なのか?俺、俺……。」
ふと、体育祭の時にどこぞの先輩から言われた言葉が、岳斗の頭をよぎった。
(全然兄貴に似てないなーああそれか、お前、もらわれっ子なんじゃないのか?)
もらわれっ子?
(洋子ちゃんも偉いよね―よそ様の子を引き取って育てるなんざ―)
岳斗はドキリとした。心臓が飛び跳ねたかと思った。その後、岳斗の胸の奥に、ドーンと重たいものが落ちてきた。思い出せない事ばかりだが、自分はどうやら八年前に城崎家に引き取られたのだ。どうして覚えていないのだろう。その前は、自分はどうしていたのか。
「岳斗、何も思い出さなくていいんだ!お前は、今のままでいいんだよ。」
海斗はそう言うと、岳斗の事を抱きしめた。ギューッと抱きしめるので、岳斗は苦しかった。苦しい。胸が苦しい。涙が出そうだ。