「あげるよ。ただ、文字書いたら写真だけ撮らせて、全部」
「くれる、の?」
「うん、二人の思い出だし。全部描いてあるのはメグルだし。あ、いや、嫌だったら断って!」
押し付けるみたいになりそうで、慌てて断ってもいいと伝えれば、メグルは声を出して笑う。そして、涙をぽろりと一粒こぼして「うれしい」と小声で答えた。
「サトルから見た私ってこんなんなんだぁってわかって、すごい嬉しい」
「恥ずかしいから、あんまそういうこと言わないで」
「なんで! すっごく可愛く見えてるんだなぁとか思っちゃったよ?」
可愛く見えてます。すごくすごく。
素直な口に出すのは、憚られるから無言で目線を逸らした。メグルはすっかり調子を取り戻したようで、逸らした先に動いて、にまぁと笑う。
「可愛いんですね?」
「可愛い、です」
「うれしいー! 大好きっ!」
立ち上がったかと思えば、バッと抱きついてくる。あの時は緊張しながらも抱きしめられたのに、今は手が硬直したように動かない。情けない自分に、ため息が出そうになる。
それでも、そんな俺も含めてメグルは選んでくれたのだからいいか。今は、少しだけ自分の生きている価値が見えてきてる気がした。
「お泊まりの日までに、全部に書くね」
「おう」
「一回お預かりしまーす」
どっかで貰った紙袋を探して、クローゼットを開ける。ゴソゴソと漁れば、案外近くにあった。すぐに取り出して、メグルの方を振り向けば、メグルは嬉しそうにスケッチブックを何度も捲っている。もし、次があったとしても、持って行けたらいいのになと思ってしまった。メグルが寂しくないように。
今回で終わればいいと、俺は思っているけど。
「はい、持ってくのに紙袋あった方がいいだろ?」
メグルはいつも小さいポシェットだけ、肩に掛けているから。そう思いながら渡せば、メグルは紙袋を受け取って、スケッチブックを丁寧に紙袋に入れた。
「うん、ありがと」
いつもより明るい笑顔に、胸がザワザワとする。メグルを笑顔にできた安心感と、これが失われるという恐怖だろうか。メグルを失わないために、俺はあと何ができる?