「いいよ、俺が洗っとくから兄ちゃんは好きなことしてて」
「出来た弟だよ、本当」
わしゃわしゃと朝早くからセットした俺の髪の毛を乱して、俺の皿の上に、自分が食べた皿を重ねる。
兄ちゃんは、自由な時間があったら何をするんだろう。最近の兄ちゃんのことを、俺は何一つ知らなかった。
「兄ちゃんって、暇な時何してんの?」
問い掛ければ、兄ちゃんは唇を開く。にまぁっとした表情に、聞いたのが間違いな気がしてきた。
「動画編集」
「え、どういう系?」
「踊ったりとか、実験したりとか、学校の勉強の仕方とか?」
「ぜんっぜん、知らなかったんだけど!」
「メグルちゃんも出てるよ」
「は?」
いつのまに、そんなに仲良くなったんだ。と、兄とメグルだけの秘密に、嫉妬がメラメラと湧き上がる。俺だって、兄がそんなことしてるって知らなかったのに。
「アカウント教えてよ!」
「今度な!」
「なんでだよ!」
「さすがに、身内は、恥ずかしいっていうか」
ムッとすれば、兄は逃げるように「お皿洗いよろしく〜」と声をかけて、リビングを出て行った。探し出してやる。その前に、お皿洗って、今日のメグルとのデートを書き残そう。イラストも併せて、残しておいたら……より思い出せるかもしれない。
手に当たる水の感触と、お皿の上を滑る泡を感じながら、一人で絵の構図を想像する。体の中心が、ワクワクとしていくようだった。