「私は、自分が忘れることの方が怖かった。覚えていれば、相手に思い出してもらう努力ができるでしょ? でも、今は忘れられることの方が怖い」

 ぽつり、と伝えられた言葉に、ため息が出る。メグルは、努力でその恐怖を打ち勝つという選択肢を。俺が見えていなかった選択を思いついたのか、という感嘆のため息だった。

 それでも、忘れられることの方が怖い。覚えていて欲しいとか、メグルの言葉に、また疑問が募る。

「誰かと仲違いでもして、忘れられてんのか?」
「そういうのじゃないよ」
「じゃあ、俺が将来、メグルのこと忘れるの?」

 俺の問いかけに、メグルは小さく頷く。心が読めて、将来が見える。メグルは属性てんこ盛りだな。そう言いかけた。でも、嘘じゃないような表情に、何を言っても、正解じゃない気がして黙り込む。難しすぎる。

 メグルみたいに心が読めたら、正解を答えられたんだろうか……。

「サトルには覚えてて欲しいなぁ、なんて!」

 湯気の立つパスタが目の前に届いたのに、二人とも手をつけられない。ただ、静寂の中見つめあって、そのままメグルの瞳に吸い込まれるような気がした。