言わずもがな、髪を切って来てきてからというもの日向野のクラスでの位置は昇格した。
顔が見えてなかった時はまるで空気のような存在だったのに、今では日向野が登校して来ると女子たちの視線が必ず向く。
特に花岡は席が前後ということもあり積極的に日向野に話しかけていた。
日向野は聞かれたことには頑張って答えていたけれど、自分からはあまり多くを語らない完全な受け身に徹していて、困ることがあれば八代に助けを求めた。
だが昼は完全に別で、日向野は相変わらずあの屋上へと続く踊り場で一人昼を過ごしている。
八代は度々トイレに行くふりをして屋上にいる日向野のところに行った。
安達たちに嘘をついて行動するのは後ろめたい気持ちもあったが、それでもあの踊り場が八代にとってもちょうどよく気が休める場所になっていたのだ。
日向野は迷惑そうにはしなかった。むしろ行ったらまた来たの、と笑ってくれて二人でどうでもいいことばかりダラダラと喋った。
今日の購買は当たりだったとか、数学の授業が眠すぎて辛かったとか、最近買ったポチャチャのグッズについてとか、本当にどうでもいいことだ。
それでも愚痴を聞いたり、S N Sに投稿する動画や写真を撮ることよりもずっと笑うことができた。
そんな学校生活が定着してきたある日、八代が登校すると日向野の席の周りに安達たちが集まっていた。
山下の後ろから日向野の席を覗き込むと、日向野と安達が花岡と篠宮からなにやら動きの指導を受けていた。カメラを向けられていることから、それはS N Sに投稿するであろう動画であることが分かる。
「なにしてんの?」
「なんか日向野バズったらしいよ」
「バズったって?」
「この前撮った動画。純人が葉山に呼び出されてていなかった時みんなで撮ったやつ。安達が日向野に声かけたんだよ」
山下は面白くなさそうに八代に状況説明をしながら、スマホで例の動画を見せた。
動画は山下が撮影したのだろう。日向野、安達、花岡、篠宮が曲に合わせて手振りだけのダンスをしている。だがどう見ても日向野だけがぎこちなくて浮いていた。
「日向野ガチガチじゃん」
「でも可愛いらしいよ」
山下がコメント欄を表示させる。そこには日向野の容姿を褒めるコメントや、ぎこちなさが初々しくて可愛いといったポジティブなコメントが立て続けに並んでいた。
ネットの拡散力はすごくて、これがどこまで広がるかはわからない。一度バズって終わりの可能性もあるけれど、顔が良い人間の動画はよく回る。花岡はそれをよく分かっているのだ。
昼休み、日向野がいつも通り席を立つと同時に花岡が振り返った。
「ねぇ日向野くんってお昼いつも居ないよね。どこ行ってるの?」
自分に質問されたわけれはないのに、変に心臓が跳ねた。
「別のクラスのやつと適当にどこかで食べてる」
日向野は動揺することもなく平然と嘘をついた。
最近の日向野はあまり人に対してたじろぐ事が少なくなった。前髪が無くなって自信がついたのかと思ったけれど、よくよく考えてみれば八代に対してたじろいだことなど一度もなかったように思う。
「そうなんだ。じゃあまたどっかで動画撮ろ」
いつもしている約束事のように言った花岡に、日向野は軽く頷いて教室を出て行った。
「純人、購買行こうぜ」
日向野と入れ替わりで安達と山下が八代の席にやって来たが、八代は適当に「葉山に呼び出された」と嘘をつきそそくさと教室を出た。
顔が見えてなかった時はまるで空気のような存在だったのに、今では日向野が登校して来ると女子たちの視線が必ず向く。
特に花岡は席が前後ということもあり積極的に日向野に話しかけていた。
日向野は聞かれたことには頑張って答えていたけれど、自分からはあまり多くを語らない完全な受け身に徹していて、困ることがあれば八代に助けを求めた。
だが昼は完全に別で、日向野は相変わらずあの屋上へと続く踊り場で一人昼を過ごしている。
八代は度々トイレに行くふりをして屋上にいる日向野のところに行った。
安達たちに嘘をついて行動するのは後ろめたい気持ちもあったが、それでもあの踊り場が八代にとってもちょうどよく気が休める場所になっていたのだ。
日向野は迷惑そうにはしなかった。むしろ行ったらまた来たの、と笑ってくれて二人でどうでもいいことばかりダラダラと喋った。
今日の購買は当たりだったとか、数学の授業が眠すぎて辛かったとか、最近買ったポチャチャのグッズについてとか、本当にどうでもいいことだ。
それでも愚痴を聞いたり、S N Sに投稿する動画や写真を撮ることよりもずっと笑うことができた。
そんな学校生活が定着してきたある日、八代が登校すると日向野の席の周りに安達たちが集まっていた。
山下の後ろから日向野の席を覗き込むと、日向野と安達が花岡と篠宮からなにやら動きの指導を受けていた。カメラを向けられていることから、それはS N Sに投稿するであろう動画であることが分かる。
「なにしてんの?」
「なんか日向野バズったらしいよ」
「バズったって?」
「この前撮った動画。純人が葉山に呼び出されてていなかった時みんなで撮ったやつ。安達が日向野に声かけたんだよ」
山下は面白くなさそうに八代に状況説明をしながら、スマホで例の動画を見せた。
動画は山下が撮影したのだろう。日向野、安達、花岡、篠宮が曲に合わせて手振りだけのダンスをしている。だがどう見ても日向野だけがぎこちなくて浮いていた。
「日向野ガチガチじゃん」
「でも可愛いらしいよ」
山下がコメント欄を表示させる。そこには日向野の容姿を褒めるコメントや、ぎこちなさが初々しくて可愛いといったポジティブなコメントが立て続けに並んでいた。
ネットの拡散力はすごくて、これがどこまで広がるかはわからない。一度バズって終わりの可能性もあるけれど、顔が良い人間の動画はよく回る。花岡はそれをよく分かっているのだ。
昼休み、日向野がいつも通り席を立つと同時に花岡が振り返った。
「ねぇ日向野くんってお昼いつも居ないよね。どこ行ってるの?」
自分に質問されたわけれはないのに、変に心臓が跳ねた。
「別のクラスのやつと適当にどこかで食べてる」
日向野は動揺することもなく平然と嘘をついた。
最近の日向野はあまり人に対してたじろぐ事が少なくなった。前髪が無くなって自信がついたのかと思ったけれど、よくよく考えてみれば八代に対してたじろいだことなど一度もなかったように思う。
「そうなんだ。じゃあまたどっかで動画撮ろ」
いつもしている約束事のように言った花岡に、日向野は軽く頷いて教室を出て行った。
「純人、購買行こうぜ」
日向野と入れ替わりで安達と山下が八代の席にやって来たが、八代は適当に「葉山に呼び出された」と嘘をつきそそくさと教室を出た。