「俺もう動画は遠慮しとくね」
昼を食べながら、この後動画を撮ろうと提案した花岡に日向野がそう返した。
「え! なんで!?」
「日向野くん人気なのに」
花岡と篠宮が落胆の表情を見せる。
「別に人気者になりたいわけじゃないし、俺は好きな人にだけ見てもらいたいなって思って」
「あーわかった! この前言ってた好きな人と上手くいったんでしょ。で、ヤキモチ妬かれてるんでしょ!」
「別にそういうわけじゃないけど……」
花岡に詰められながら、日向野が横目に八代を見た。
席が隣だったことに後悔したが、それよりも自分の顔がすぐに赤くなってしまうことをどうにかしたかった。
止めたわけではない。無理してやる必要はないと助言しただけだ。
現に、動画という口実がなくても日向野は教室で一緒に昼を食べるようになったし、常に自分と一緒にいられるのだから、動画に出なくてもなんの問題もないのだ。
「ん? 純人なんか顔赤くない?」
悪気もなく突っ込んできたのは安達で、そのせいで全員がこちらを見る。
「本当だ。どうした?」
山下も不思議な顔で見てくるもんだから、余計に体温が上がった。
「いや、だって今日暑いじゃん」
「まぁもうすぐ夏だしなー」
安達がワイシャツの襟元をパタパタと仰ぐ。
「夏かー早いね」
花岡が言うと話は一気に夏休みになにするかの話になった。
「みんなでどこか行きたいね。夏祭りとか」
篠宮が提案すると、日向野と目が合った。
日向野はバレないくらいに小さく小刻みに首を左右に振る。それを見てバレずに笑った。
「あとは海とか?」
「花岡ちゃんナイスセンス!」
「いや。普通のことしか言ってないだろ」
夏やみの話題が続く中、サンドウィッチを食べ終えた日向野が立ち上がった。
「八代くん、俺たち職員室行かないとだよ」
「え、あぁ。そうだった」
そんな予定は無いが日向野がはっきりと言ってのけるので、とりあえず合わせて一緒に教室を出た。