中入ると、日向野は腕を枕にして床で寝ていた。
そんなに眠れるほどリラックスできる状態なのだろうか。
そっと日向野の顔を覗き見る。南川の動画で見た寝顔よりも幾分大人になっているように見えた。
「日向野」
呼んでも日向野は目を覚さない。
寝ている日向野の隣に座り寝顔を見下ろす。
なんでだよ。話しに来たんだろ。なに呑気に寝てんだよ。
「なんの話ししに来たんだよ。なぁ」
思わず日向野の顔に掛かった髪を手で払う。
「くすぐったいよ」
目を閉じたまま日向野が言った。。
反射的に手を引っ込めると、寝転がったまま日向野が目を開ける。自然と目が合った。
「……なんだよ」
「俺が寝てたらきっと、八代くんにキスされても分からなかったよ」
「え?」
「こうして目閉じて寝てたら、八代くんが動画撮ってても気づかないよ」
「だからなに?」
「だから俺がキスしたことあるのは八代くんだけなんだよ」
「よくわかんないんだけど」
「あの動画の俺は本当に寝てた。意識ないからキスされてたなんて知らなかったんだよ。……まぁ寝起きを撮られたことに反撃したっていうのはあるけど」
日向野はそう説明して起き上がり、八代に向き合うように座った。
「あの動画のこと?」
聞くと日向野がこくんと頷く。
確かに寝ている日向野を見てすぐにあの動画が過った。
でもまさか、その状態を演出していたとは考えもしなかった。
「ちゃんと南川と会って話してきたし、聞いてきた。八代くんになにを話したのかとか、見せた写真とか、動画も全部」
「……どうやって連絡取ったの?」
「花岡さんが撮ってた動画に南川がコメントしてたんだよ。中学の時から使ってたプライベートのアカウントで。だからそこから連絡取った」
確かにそれなら日向野にしか分からないだろう。
「俺が保健室に行ってた日あるでしょ。実はあの前日に南川のコメント見つたんだよね。頑張って学校には行ったんだけどやっぱり整理つかなくて、授業どころじゃなくなっちゃってさ」
ならば最悪のタイミングで南川のことを聞いたということだ。
「多分、断片的に話してもしょうがないから、全部話すね。ちゃんと喋らないと伝わらないと思うし」
そして日向野は自分自身のことを話し始めた。