十五分足らずパスタは出来上がってしまい、心の準備などしている余裕はなかった。
「日向野、持ってって」
呼ぶとすぐに日向野はやってきて、二人分のパスタをリビングへと持っていってくれた。
フォークとコップとペットボトルのお茶を持って行き、日向野の隣に座る。
「すごいね、八代くん。料理上手なんだね」
感心したように日向野がスマホでパスタの写真を撮っている。
「そんな別に撮るもんじゃないでしょ。あるもので適当に作っただけだし」
「撮るよ。八代くんがせっかく作ってくれたんだから」
「いいから食べるぞ」
かれこれ二週間近く口を聞いていなかったというのに、自然と話せてしまっていることが不思議だった。
「いただきます」
日向野がパスタを口へと運ぶ。「どう?」とは聞かなかったが、日向野はすぐに「美味しい」と言ってくれた。大したことはしてないが気恥ずかしくなる。
「料理上手なんだね」
「一人の時にたまに作ってるから」
「そうなんだ、初めて知った」
「初めて言ったからな」
「……ちゃんと喋って初めて知るよね、そういうの」
それから日向野は口を閉ざしてしまった。喋れない空気になってしまい、そのまま興味のないテレビを見つめながら、互いにパスタを完食した。
食器を洗ってから行くからと先に日向野を部屋に行かせ、さてこれから何をどう切り出そうかと考えた。
きっと日向野の方から声はかけてくれると思うが、もし部屋に行って沈黙が待っていたらと考える。
「今日はどうしたの?」「なにを話しに来たの?」なんて切り出し方などいくつでもあるが、いざ部屋に入ったら言葉が出てこないかもしれない。
世間話ならまだ自然に話せるかもしれないが。
自分の部屋に入るのに緊張する日が来るとは思わなかった。
目の前の扉をどんな顔をして開けらたいいのかわからない。
だが開けないという選択肢は無いので意を決してドアノブを下げた。