日向野から告白されたその日の夜、眠れないままに過ごしていると坪内からメッセージが届いた。
【八代って日向野渉と仲良い?】
その文面を見た瞬間、なぜだか嫌な予感がしてすぐに坪内に電話を掛けた。
なぜ人脈が狭そうな日向野のことを坪内が知っているのか。今すぐにでも答えが知りたかったのだ。
平日の十一時ということもあり、寮にいたのであろう坪内はすぐに電話に出た。
「なんで日向野のこと知ってんの?」
開口一発目にそう聞く。
八代の疑うような声色に一瞬坪内は言い淀んだが、それでもはっきりと『実は……』と話し始めた。
『うちのクラスに日向野渉に会いたがってる奴がいて、八代を通して会えないかなって』
いきなり電話したことや、自分の聞き方が悪かったのかもしれないが、坪内は大切なとこをすっ飛ばして単刀直入に聞いてきた。
「ちょっと待って。理由は? その会いたいって言ってるのは誰なの?」
友達だとしたら連絡先を知らないのは怪しすぎるし、そもそも坪内を通して詮索してくるようなことをしている時点で安全な奴だとは思えない。
『なんていうか、ちょっと説明難しいんだけど……八代ってアキラってインフルエンサー知ってる?』
「あのなんか中性的な顔したアキラ? 最近ポチャチャとコラボしてる奴?」 
『あ〜そうそう! すげー八代詳しいじゃん』
「……姉ちゃんが好きだから。で、そいつが何」
『会いたがってんの、そいつが』
「いや意味わかんない」
『だからその南川が、あ、アキラのことね。俺同じ学校で同じクラスなの。それで……』
坪内は思い出すように、ことの経緯を話し始めた。
どうやら坪内は、八代のS N Sに載せていた動画を学校で一人見ていたらしい。その時に後ろの席だった南川にも動画が見えたらしく、そこに日向野が映っていたために「その人たち知り合い?」と声をかけられたのだという。
坪内が八代と知り合いであることを話すと、南川は日向野と知り合いだと言ってきたらしい。
「ていうかなんで学校で見てんだよ」
「だって八代が自分のアカウントで動画載せてるの珍しいじゃん」
普段は見る専用だと言ってとりあえず登録だけしているS NSのアカウントだ。だがここ最近は日向野をバズらせるために、花岡に言われて自身のアカウントでも動画を引用して載せていた。それを坪内は見たのだ。
「で、その南川と日向野の関係はなに?」
『いやなんか、南川と日向野渉って中学が一緒で結構仲良かったらしいよ』
どうでもよさそうに言いながら坪内が続ける。
『でも中学卒業してから南川がスマホ変えたらしくて、そしたら連絡先ぶっ飛んだんだって。で、連絡取る手段がないから会えてなくてーって言ってた』
「よくあの動画で日向野だってわかったな、その南川は」
『いやあんなイケメンすぐわかるだろ。中学時代もそりゃオーラあっただろうし』
そうか。坪内は垢抜ける前の日向野を知らないのか。
でもということは、中学時代はあんな風に前髪で顔を隠して影が薄い感じではなかったということかもしれない。
南川が一瞬でわかるというのなら、中学時代はポテンシャルをフルに見せていたのだろう。だとしたら、なぜそれを隠すようなことをしなくてはいけなかったか。
日向野のことについてあれこれ脱線していく考えに頭を振る。
今はそれはどうでもいい。南川という奴が信頼できるかどうかだ。
そもそも、今の時代連絡先がなくたってS NSで共通の友人を辿って会うことくらいできるのではないか。
探偵の如く得体の知れない南川の素性を考察していく。だがそれには手がかりが少な過ぎた。
『まぁとにかく、連絡先知りたいって』
「それは俺の方からは勝手に教えられないから、一応日向野に聞いてみるよ」
『よろしく頼むわ』
そう言われて、坪内との通話はあっさりと切れた。
というかインフルエンサーがクラスメイトにいるのかよ。
大概の人間なら言いふらしそうなもんだが、まぁ坪内の性格的に本当にどうでもいいのだろうな。
坪内も自分と同じでそこまで人に深入りしないタイプだからだ。
とはいえこれで、告白の返事よりも先に日向野に話さないといけない話題ができた。明日からさてどうしようかと思い悩んでいたが、一旦は返事を保留にしておける。
それにしても、日向野にちゃんとした友達がいることに驚いた。しかもそれがインフルエンサーだなんて。
そういえば、最初の頃に日向野に聞いたことがあったな。
「日向野ってさ、ポチャチャとアキラどっちのファンなの?」と。日向野は「ポチャチャ一択だからだから」と即答していた気がする。
あの反応を見るにあまりいい関係ではないのか。
まぁとりあえず、今日メッセージを送るよりも明日直接聞いてみよう。
その方が色々と話を聞けるかもしれないし。