自分の部屋の扉を開けた途端に、僅かに残っていたサボン系の香りが鼻をつく。
こんな香りの残る香水なんかつけて来やがってと腹立たしくなった。
その香りが漂っているせいで、あの時の唇の感触が鮮明に蘇ってくる。
やっと冷静になれると思ったのに。どうして離れてからも振り回されなければいけないのだろうか。
色んな人たちと関わって自分のことを知りたいと思っていた。でも誰と居たって似たような、同じような日々の繰り返しだった。なのに今、たった一人の男にこんなにも心を乱されている。そのことが少し怖いとすら思う。
心が激しく動く。冷静でいようと頑張るけれど気持ちのコントロールができなくなる。
こんな感情知らない方が幸せだったのではないだろうかと、八代の頭はパンク寸前だった。