「置いてったって?」
「安達くんとどっか行ってた」
「だって俺たち見てるだけだったし」
「でも」
「別に大丈夫だったでしょ。日向野みんなと普通に話せてるし問題ないじゃん」
頼むからもうこれ以上聞いてこないでくれという気持ちが先走り、日向野の言葉を遮った。
それでも日向野は自身の気持ちを一生懸命伝えようと澄んだ目で見つめて話してくる。
「別に話せるけど、俺は八代くんがいるから……」
「でも楽しそうだったじゃん」
それ以上何も言うなと圧をかけるように日向野の方を向く。
「俺がいなくても平気だったじゃん」
日向野の目がどこか自分を咎めているように見えて悔しくなる。
「そんな目で見るなよ」
そんな目で見させているのは自分だということはわかっているけれど、心が上手くコントロールできない。
こんな自分は初めてで、もう十六年は生きているのに対処法がわからなかった。
「日向野ってさ、一人が好きとか言って本当はグループに入りたかったんじゃないの? だから俺みたいなのが居て使えるなとでも思ってんでしょ」
嫌な言い方が治らない。これはどうしたらいいのだろう。
止めたい。傷つけたいわけじゃないのに。
「どういうこと?」
「ほら、こういうグループ行動とかしたことないんだろうし、俺が居いれば簡単に友達もできるもんね」
日向野にはそんな目的などないことはわかっていたのに、自分でもなぜこんな言葉が流暢に出てくるのか不思議でしょうがなかった。
これが自分の本音なのだろうか。これが自分が日向野に対して抱いていて気持ちなのだろうか。
そんなこと、考えたことなど一度だってないのに。
「俺、ただの動画要員でしょ?」
八代の言葉に、自身を嘲笑うかのように日向野が答えた。
何かを返そうとする八代の口は、わずかに唇が動くだけで言葉を発することはない。
まるで足を貰うことを引き換えに声を失った人魚のように、八代の声は喉の奥で詰まっていた。
「これ友達って言えると思うの?」
さらに鋭く突き畳み掛けられる。その言葉には日向野の虚しい気持ちがこれでもかと言うほど詰め込まれているように思えた。
花岡たちは動画の再生回数を稼ぐために日向野を使っている。あわよくば、イケメンと遊びたいがために遊びに誘っている。
そんな分かりきったひどいことを日向野の口から言わせたのが自分自身なのだと思うと、自責の念に駆られた。
「八代も投げたらー?」
タイミングが良いのか悪いのか安達に投げ方を教わっていた篠宮が振り返って声を掛けてくる。
それはこの上ない逃げ先だった。
自分から攻撃いておいて、死角から刺されたからといって逃げることは卑怯なことだとはわかっている。
日向野に言わせた言葉を無かったことにしたい。
そう思うのに、もう一度日向野と対峙して言葉を受け止めきれる勇気は八代には無かった。
「安達、俺にも……」
俺にも教えて、そう答えて立ち上がろうとしたのに、八代は身動きを取ることができなかった。
「ちょっ……」
八代の手首はガッチリと日向野の手に掴まれている。
逃げることなど許さないと、その力の強さが物語っていた。
「……日向野」
掴まれた手首を軽く揺するが日向野は離そうとしてくれない。
「誰かに見られたら……」
「帰りたい」
静かに懇願する目を八代に向けながら、周りのガヤにかき消されそうなほど小さな声がなぜだかはっきりと耳に届いた。
「帰ろう。八代くん」
日向野の手が手首からスルスルと滑り落ちてきて八代の手を優しく握る。
心細い子どもが絶対的な味方である親に縋るようで、その様を見てしまった八代には断る選択肢なんて一ミリも残されていなかった。