目的のアミューズメントパークに着くと祝日ということもあって館内は若者で賑わっていた。
ここはボウリングやカラオケの他にも、屋内で様々なスポーツができる学生にはもってこいの施設だ。
ボウリングはなかなかレーンが空きそうにないので諦めた。
花岡が日向野がスポーツしてるところを撮りたいと言い出したため、全員でスポーツエリアに行ってみることにした。
だがそこもかなりの混雑で、できそうなものはない。
仕方なく、まだ少ない待ち時間でできるローラースケートをやってみることになった。だが人数的に全員で入ることは難しかったので、ここは日向野と花岡と篠宮で行ってもらう。
八代と安達と山下はリンクの外から三人を見ていた。
日向野は器用にローラーシューズを乗りこなし、篠宮もゆっくりではあるが立って進むことはできている。問題は花岡で、まるで生まれたての子羊のようにプルプルと震えて立つことすらままならない。
それを可愛いと見ている山下に八代と安達は苦笑いした。
「花岡さん、掴まっていいよ」
見かねた日向野が花岡にさりげなく手を差し伸ばす。
「あ、あいつ!」
すぐさま日向野の行動に反応したのは山下だったが、八代もその様を目で追っていた。
花岡はうっとりと日向野を見上げると、差し出された日向野の手を躊躇いなく掴んだ。
転ばないようにと日向野が強く花岡の手を握る。
「無理。俺行ってくるわ」
颯爽と山下がローラーシューズを借りに走っていく。
「バカだなぁ」
呆れたように安達が山下を見て笑う。
八代は山下が居なくなったことになど気づかないほとに、花岡の手を取ってリンクを滑る日向野を目で追っていた。
心の中では意識せずに日向野に対しての攻撃的な言葉ばかりが湧き上がってくる。
なんの躊躇いもなく誰とでも手を重ねるのか。
だからあの時も自分の手を握ってきたのか。
一人がいいとか言いながら誰にでも優しくするのか。
人に興味ないふりして本当は誰よりも興味を持ってもらいたいのではないか。
見当違いなんてことは頭ではわかっているのに、攻撃していないと心臓がしめつけらるような苦しさに襲われるのだ。
花岡を支えながらも近くにいる篠宮がふらつけばそっちも気遣う日向野は、平謝りする二人に大丈夫だよと微笑み返してる。
ーーお前、俺のことを知りたかったんじゃないのかよ。何でそんな好かれるようなことばかりするんだよ。
「安達、あっち行こう」
日向野たちを自分の視界に入れておくには心が限界だった。
「おっ、じゃあ卓球やろうぜ」
八代の様子を特に気に留めるわけでもない無神経な安達の性格が今はありがたかった。
安達と卓球台に移動してラリーをした。
ピンポン玉を目で追っていれば不思議と何も考えないでいられたのに、安達はすぐに飽きたのかラリーは十分も続かなかった。
次はダーツをやりたいと安達が言ったので、八代はただ着いて行くだけだった。
ダーツは賑わっていたがタイミングよく台が空いたので、安達が投げるのを後ろから見ていた。
不思議とダーツを投げる安達はかっこいいと思う。というかダーツができる男がかっこいいのだろう。
もし日向野も上手かったら……。
「八代くんは投げないの?」
耳元で囁かれてぞくりと背筋が震えた。
まさかの幻聴かと振り返ると、撮影を終えた日向野たちが集まってきていた。
花岡が日向野の背後から顔を出す。
「純人は投げないの?」
日向野にぴたりとくっつく花岡から目を逸らして、「今日はやんない」と冷たく言い放った。
「どうしたの? なんか安達に負けた?」
篠宮がニヤリと聞いてきた。
不機嫌を態度に出す奴はどうしようもない人間だと思っていたが、自分ではどうしようもできないこともあるのだと初めて経験した。
それほど今の自分は余裕がない。
当たり前に日向野は花岡に勧められて投げていたが、初めてやったらしく刺さることすらなかった。
その様は誰が見てもカッコ悪くて何だか少し笑えた。
「難しいんだね。ダーツって」
学びましたというように日向野が席に戻ってくる。
入れ替わりで、安達が投げ方を教えるために花岡と篠宮と山下を連れて前へ出た。
「安達のこと見てみな、かっこいいから。すげー上手いんだよ」
安達に視線を送ったまま日向野に答えた。
安達は得意げに花岡たちに立ち方から教えている。
「……どうして置いて行ったの」
ひどく沈んだ声だった。