徳増日葉里(とくますひより)が暮らす遠州地方(えんしゅうちほう)の一部地域では、お盆は七月だ。
 もちろん八月に盆供養をする家もあるが、七月にお盆をおこなう習慣は根強い。
 規模や習慣は地域においてもまちまちだが、古くからの農家が多い地域ほど盛大な初盆をおこなう傾向にある。
 喪服を着て『盆義理(ぼんぎり)』『盆義理』と言いながら、家々を廻る。
 受け入れる側もなれたもので、玄関ではなく、仏間の吐き出し窓を全開にしてそこに線香台を起き弔問客を受け入れる。
 そうすることで、盆義理に忙しい人たちは靴を脱ぐこともなく、焼香することができる。
 なかでも海から離れた平野部の盆供養は壮大で、初盆をおこなう家の前で太鼓の叩き手を中心に双盤(そうばん)を配し、音頭取りに合わせて念仏や歌枕を勇ましく唱和する。
 『遠州大念仏(えんしゅうだいねんぶつ)』というものである。
 初盆を迎える家の依頼を受けて、その家の庭先で笛に太鼓に鳴り物鳴らして歌い踊る。
 地方から超してきた人はそういった壮大な初盆の様子を見て、「この辺では二度葬式をするのか」と驚くことも少なくないのだとか。