管理棟と北校舎をつなぐ渡り廊下に差し掛かったときふと人の気配を感じた。

 誰かいる?いや、このへんは誰も通らないし来ないし…

 ちょっとした好奇心からその存在を確かめるためシューズのまま歩き出す。
 歩くたびにザクザクと枯れ葉や石を踏む音が聞こえる。
 俺の膝ぐらいまで伸びた草をかき分ける。
 
 っていうかここ手入れされてなさすぎじゃね?
 俺の膝丈の草ってどんな草だよ。
 
 少し歩くと開けた場所に来た。

 あ、ここは手入れされてんだ。

 足の方についた草を取り払いながら進むと小さな花壇があった。
 雑草もなく、きれいな薔薇の花が咲いていた。
 特別花が好きだったりするわけではない。逆に花に何かを感じたことはなかった。
 だけどなぜか、この花壇の花は綺麗でずっと見ていたいと思った。


「あのっ、」
「…っ!?」


 声をかけられ振り向くと小柄な男の子が立っていた。
 手にはじょうろが握られておりこの子が花壇の世話をしているということが分かった。


「好きなんですか?」
「いや、べつに、、、」


 曖昧な返しをするときょとんとしたような顔をしてふわりと微笑んだ。


「綺麗ですよね、この薔薇。俺が手入れしてるんですよ。」
「……」


 水の入ったじょうろを傾け薔薇の根本にかける。
 太陽が反射して水がキラキラと光って見える。
 俺はその様子をじっと見つめていた。
 なぜかそこだけが純粋で神聖ななにかのように見えてしかたがなかった。
 心臓がドクドクと音を立てる。
 薔薇に水をやる男の子に俺は釘付けになっていた。


「すみません、」
「あ?」


 思わず自分の思っているよりもだいぶ低い声が出てしまう。
 やっべビビらせたか?

 一瞬驚いたもののビビってはいないのか俺にためらわず話しかけてくる。


「俺、この辺整理してて、薔薇とか傷つけないんだったらゆっくり見ていってください。」

「あと、」



「シューズ履いたままですよ。汚れちゃいますよ。」


 はっと目が覚める、
 そういえば俺シューズのままじゃん。
 うっわ最悪だ……。このまま職員室行けないじゃん。

 一人絶望していると視界の端でペコリとお辞儀をして去っていく男の子を捉える。
 いつもなら心にも止めないのに、何故かその子のことを知りたくて、もっと声を聞きたくて、、、
 しばらくの間俺は放心状態だった。

 少しして来るのが遅い俺を心配した先生によって起こされたものも、その時何を言われたとかを全く持って覚えていなかった。