テストは意地で受けた。さすがにテスト期間は刺激はなく、ひたすらシャーペンを手や太腿に刺してしのいだ。
正直しんどい。けれどまだ夢の世界に引きずり込まれるわけにはいかない。誰かといればなんとか、という気持ちが大半。結果が気になってしょうがないももちろんありつつ、彼に声をかけた。
家で自己採点会。といっても、先生である彼が確認するのを私がじっと待っているだけ。それでもいい。彼が、誰かがいてくれるだけで、一人でいるよりも眠りの誘惑に戦う理由になる。
―― ……以前のようにはしない。絶対に。
眠りはしないけれど、戦い続けた瞼を労わるために目を閉じた。それを見られないように両手で顔を覆った。
彼には伝わっているだろうか。私の眠気が。私の葛藤が。私の限界が。
伝わっていないだろうな。伝わってほしくないもの。
気付いてほしいような、ほしくないような。気付かれたら頼ってしまう。今でも頼ってしまっているのに、一度間違えてしまっているのに。自分が自立しているためにも自分を追い込まなければ。
大丈夫。私は大丈夫。
私は一人でも……まだ大丈夫。
「全部の点数出たよ」
瞼が起きてくれた。眠気からくる低い声が、点数の詳細を訪ねる。
「…………どうですか」
結果、私は突っ伏した。このまま眠ってしまいそうになって、声を出すことで耐える。
赤点は微妙なラインだった。平均点次第では大丈夫だろうと言ってくれた。まだ望みがあるだけでも上々か。
そして彼はやはり優秀だった。すごいな。どれだけの努力をしているんだろう。
自分の曖昧な出来に申し訳なさが募り、同時に体の眠気も限界が来て、床に蹲った。彼は必死に起こそうとする。本気で心配してくれる。有難さも、申し訳なさも、両方。
お互いのためということで、採点後は早々に解散になった。
私が鍵をかけた玄関扉の内側で倒れた。
・♢・
「玲良ちゃん!」
「っ」
揺れと声と痛みで目が覚めた。霞む視界の先に誰かがいる。音が籠っていて聞こえにくい。
「目が覚めたのね。アタシよ、大家のおばあちゃんよ」
「……ぁ」
「声が出ない? 待ってね、飲み物よ」
口元に何かが触れた。これはもしかしたら飲み物だろうか。細長いそれをストローと考えて、咥えて、なけなしの筋力で吸い上げる。ちょろちょろと少量が口の中を湿らせる。
「氷にする?」
吸わないで自然と解ける氷は有難い。
全力で小さく頷けば、唇にひんやりしたものが触れた。震えながら開けば、小さい氷が入ってきた。じんわりととけて口の中の温度が下がる。喉を通って胃に流れているのがわかる。
「何があったのか聞きたいけれど、まずは休んでね。体調を見て病院に行きましょう」
何かやわらかいものをかけられた。
足音からして大家さんはベッドの傍から離れていった。
頭がぼーっとする。もしかしたら熱があるのだろうか。
今日は何日だろう。どれほど寝てしまったのだろうか。
大家さんはどうしてきてくれたんだろう。
「……てすと、の、けっか……」
霞む目を擦って、何とか視界を合わせる。私の部屋ならばこの角度で電子時計があるはず。おおよその位置に視点を向けて目を凝らす。
「じゅうがつ、ふつか……?」
自己採点会から一週間以上経っている。もう回答用紙の返却も終わっている……。
どうだっただろうか。彼の優しさに応えられただろうか。
気になる結果の傍ら、動かない体がもどかしい。目を擦った後の手が顔の横で横たわっていた。額に手を当てればひどく熱い。熱があるのは確実だ。でも咳は出ない。喉は乾燥してるけど痛くはない。
水分とって休んで、治ったら学校に行こう。結果を聞いて、彼に報告しなきゃ。
心に刻んで目を閉じた。今回ばかりは眠ってしまうことに対抗心を抱く元気もない。
・♢・
正直しんどい。けれどまだ夢の世界に引きずり込まれるわけにはいかない。誰かといればなんとか、という気持ちが大半。結果が気になってしょうがないももちろんありつつ、彼に声をかけた。
家で自己採点会。といっても、先生である彼が確認するのを私がじっと待っているだけ。それでもいい。彼が、誰かがいてくれるだけで、一人でいるよりも眠りの誘惑に戦う理由になる。
―― ……以前のようにはしない。絶対に。
眠りはしないけれど、戦い続けた瞼を労わるために目を閉じた。それを見られないように両手で顔を覆った。
彼には伝わっているだろうか。私の眠気が。私の葛藤が。私の限界が。
伝わっていないだろうな。伝わってほしくないもの。
気付いてほしいような、ほしくないような。気付かれたら頼ってしまう。今でも頼ってしまっているのに、一度間違えてしまっているのに。自分が自立しているためにも自分を追い込まなければ。
大丈夫。私は大丈夫。
私は一人でも……まだ大丈夫。
「全部の点数出たよ」
瞼が起きてくれた。眠気からくる低い声が、点数の詳細を訪ねる。
「…………どうですか」
結果、私は突っ伏した。このまま眠ってしまいそうになって、声を出すことで耐える。
赤点は微妙なラインだった。平均点次第では大丈夫だろうと言ってくれた。まだ望みがあるだけでも上々か。
そして彼はやはり優秀だった。すごいな。どれだけの努力をしているんだろう。
自分の曖昧な出来に申し訳なさが募り、同時に体の眠気も限界が来て、床に蹲った。彼は必死に起こそうとする。本気で心配してくれる。有難さも、申し訳なさも、両方。
お互いのためということで、採点後は早々に解散になった。
私が鍵をかけた玄関扉の内側で倒れた。
・♢・
「玲良ちゃん!」
「っ」
揺れと声と痛みで目が覚めた。霞む視界の先に誰かがいる。音が籠っていて聞こえにくい。
「目が覚めたのね。アタシよ、大家のおばあちゃんよ」
「……ぁ」
「声が出ない? 待ってね、飲み物よ」
口元に何かが触れた。これはもしかしたら飲み物だろうか。細長いそれをストローと考えて、咥えて、なけなしの筋力で吸い上げる。ちょろちょろと少量が口の中を湿らせる。
「氷にする?」
吸わないで自然と解ける氷は有難い。
全力で小さく頷けば、唇にひんやりしたものが触れた。震えながら開けば、小さい氷が入ってきた。じんわりととけて口の中の温度が下がる。喉を通って胃に流れているのがわかる。
「何があったのか聞きたいけれど、まずは休んでね。体調を見て病院に行きましょう」
何かやわらかいものをかけられた。
足音からして大家さんはベッドの傍から離れていった。
頭がぼーっとする。もしかしたら熱があるのだろうか。
今日は何日だろう。どれほど寝てしまったのだろうか。
大家さんはどうしてきてくれたんだろう。
「……てすと、の、けっか……」
霞む目を擦って、何とか視界を合わせる。私の部屋ならばこの角度で電子時計があるはず。おおよその位置に視点を向けて目を凝らす。
「じゅうがつ、ふつか……?」
自己採点会から一週間以上経っている。もう回答用紙の返却も終わっている……。
どうだっただろうか。彼の優しさに応えられただろうか。
気になる結果の傍ら、動かない体がもどかしい。目を擦った後の手が顔の横で横たわっていた。額に手を当てればひどく熱い。熱があるのは確実だ。でも咳は出ない。喉は乾燥してるけど痛くはない。
水分とって休んで、治ったら学校に行こう。結果を聞いて、彼に報告しなきゃ。
心に刻んで目を閉じた。今回ばかりは眠ってしまうことに対抗心を抱く元気もない。
・♢・