「つきましたね」

夏樹は、入園チケットを入園ゲートの人に渡した。

「さぁ、行きましょう」

夏樹が、笑顔をこちらに向けてくる。

「うん」

私も、できるかぎり笑顔になる。

「俺、うさぎにニンジン、あげたいです!」

「私はね、レッサーパンダを見てみたい」

「じゃんけんで決めましょう」

じゃんけん・・・。

弱いんだよね、私。

「じゃんけんポン!」

私は、グー。

夏樹は・・・、チョキだ。

「勝った~!」

じゃんけんに久しぶりに勝った気がした。

「じゃあ、先にレッサーパンダを見てもいいでけど、

その代りに、俺は、芽衣先輩じゃないくて、芽衣って呼ばせてもらいます」

夏樹が不敵に笑った。

「いいけど、その代り、今日限定だからね」

私も夏樹と同じように不敵に笑う。

「ええ~」

夏樹は、ガックリと肩を下ろした。

「じゃあ、レッサーパンダを見に行くよ」

私は、心の中でガッツポーズをする。

夏樹に勝った気がする。

「でも、あとでうさぎも見るからな」

夏樹がサァーと私の前に出て、ニヤッと笑う。

「敬語・・・、抜けてる」

「別に、いいだろ」

夏樹の顔が真っ赤になる。

(少し可愛い・・・)

「顔が真っ赤」

クスッ。

思わず、笑いが漏れてしまった。

「芽衣」

真剣な顔をでこちらを振り向いて言う。

「芽衣」

・・・恥ずかしい。

これ以上、夏樹を目を合わせていられなってきた。

限界と思って、私はフイッと顔を逸らす。

顔を逸らしたはずなのに、目の前には夏樹がいる。

不敵に、意地悪そうに笑う夏樹が。

「はめたでしょ」

私は、横にいる夏樹をニラむ。

「・・・カワイイ」

夏樹が、ポツリと何か言った。

「なんか言った?」

夏樹の声が小さすぎて聞こえなかった。

「ううん」

夏樹が、ニンマリ笑う。

「怪しい」

「あっ、レッサーパンダ」

夏樹が指を指したところに目線を移す。

「わああぁ」

可愛すぎる。

レッサーパンダってすごくカワイイ。

思わず、頬が緩んでしまう。

「・・・最高」

私は、夏樹に聞こえない程度につぶやいた。