オムライスを速攻に作って、リビングの小さい机に置いた。

「はい。オムライス」

「ありがとうございす!」

彼は、ぱぁーと花が咲いたみたいに笑った。

「おいしいです」

「お世辞はいらない」

「いや、本当です」

夏樹は、真剣な瞳で言った。

「初めて食べました。こんなにおいしいの」

オムライスを見ながら、優しく微笑んで続けた。

「誰かのために、一生懸命作ったのってこんなに美味しいんですね」

夏樹は、まだオムライスを見つめている。

でも、その瞳は、寂しそうに見えるの私の気のせいだろうか。

「早く、食べたら?」

「あの、芽衣先輩は?」

「えっ、私?」

「はい。食べないんですか?」

「うん。食力があんまりないから」

これは、本当だ。

お昼ぐらいから、食力がそこまでなかった。

なんか食べなきゃいけないのは、わかるけど、やっぱり、食力がない。

「でも、食べなきゃいけないと言ったのは、先輩ですよね?」

「そうだけど・・・」

歯切れが悪くなる。

「とりあえず、早く食べて、家に帰らなきゃいけないでしょ」

「分かりました。明日もいいですか?」

「明日は、ダメ」

「なんでですか?」

こう言ったら、こう言う。

「無理は無理」

「えぇぇ」

「放課後、遊ぶんだからいいじゃんか」


「そうですけど・・・」

「これ以上駄々こねたら、放課後、遊ばないよ」

「分かりました」

そこまで、私と一緒に放課後、遊びたいのか。

やっぱし、『夏樹』って人は、理解不能。

「じゃあ、お邪魔しました」

「うん。お邪魔していたね」

「先輩。そこは、否定するとこじゃないですか?」

「本当のこと言ったまで」

「先輩って、ツンデレですか?」

「君もまあまあ、すごいよ」

「何がですか?」

「もういい」

何か言ったら、何か言うから、答えるのをあきらめた。

「何がですか?」

「そういうところ、夏樹は、すぐに質問する」

「だって、気になるんです」

「だからって」

「デリカシーってもん知ってる?」

「知っています」

コイツ、デリカシーを知っているのに何で、こういうの分からないのかな。

「夏樹って、天然?」

「天然って?」

天然の人は、天然のことが分からず、『天然って?』そう答えている人が多いらしい。

「まあ、取り合えず、今週末、何するの?」

「そうですね、今週末は、動物園に行きましょう」

「どこ」

「そうですね・・・、やっぱり、隣町の大きな動物園ですね」

「えっ⁉」

「動物、怖いんですか?」

「いや、怖くないけど」

「けど?」

動物は、大好き。でも、動物に舞い上がっている自分を夏樹に見せたくない。

「どうしても、動物園じゃないとダメ?」

「はい。どうしてもです」

やっぱり、夏樹って人の話を聞かないな。

「分かった」

「場所どこ?」

「何言っているんですか?」

「えっ」

「えっ、俺が向かいにいけばいいじゃないですか?」

「ええ、それはダメ」

「なんで、ですか?」

「いや・・・。」

こいつ、自分がどれだけモテているか分かってない。

こいつといたら、絶対に女子から変な目で見られるだろう。

「じゃあさ、星丘公園で待ち合わせね」

「はい」

「じゃあ、帰った、帰った」

「ええー」

「もう、七時だよ?、早く帰った」

「はい。明日もまた」

「うん、また」

彼は、一回振り返って、ニコって笑ってゆっくり帰っていった。

今日は、騒がしい一日だったな。

明日もこんなに騒がしい日々が続くのかな。