五六時間目が終わり、放課後になった。

「芽衣~。バイバイ」

夕香と梨華は、放課後いつも一緒に帰りながら、遊んでるから、いつも放課後は図書室にずっとこもっている。

今日は、何を読もうかな。

あっ、今日の朝読んでいた『君の涙は、夕日みたいに輝いている』を読もうかな。

この本を読むとなんとなく元気がでる。

さっそく、読もうとしたときに、図書室のドアが開く音がした。

「ここにいたんですか」

この声に見覚えがあった。

まさかと思いながら、ゆっくり振り返ってみた。

そこには、少し息が上がっている夏樹がいた。 

「えっ、何で、」

「探していたんです」

「探していた?」

夏樹は、息を整えながら、私の質問に答えた。

なんで、探していた?

意味がよくわからない・・・。

「はい。山田さんがどこにいるかを探していたんです」

「なんで、探していたのって聞いたんだけど」

考えていた答えと全然違った。

「放課後一緒にいたいからです」

・・・・・・。

「もう一回聞くね、なんで、探しにきたの?」

「放課後一緒にいたいからです」

さっきと同じ言葉を返された。

「無理、パス」

「ヤダ」

即拒否された。

てか、マジで子供かっ。

「ヤダは、こっちのセリフ」

「ヤダです」

私たちは、一体何をしているのだろう?

「とにかく、今日は学校の近くにある星丘公園に行きましょう」

「なんで、公園なの?」

「ブランコがあるから」

また、子供っぽい考えがでた。

彼は、本当に高1なのだろうか?

「分かった。でも、騒がないでね」

「わかりました」

分かってくれたのかな?

グイッ

「っ」

手を引っ張って廊下をずんずん進んでいく。

「早い、歩くの早い」

彼は、私より少し背が高いから歩く歩幅が少しでかい。

「だから、ちょっと待ってっ」

なんど話しかけても、夏樹は、止まらない。

学校をでてすぐ近くに、星丘公園がある。

星丘公園についた。と安心したつかの間、夏樹が、

振り返った。

「今日、何があったんですか」

「何がって?」

夏樹が言っている意味が分からない。

「何って、屋上に来ましたよね?」

「そうだけど・・・」

彼の瞳は、まっすぐで何もかも見透かされそうで怖い。

「言うつもりなかったんですけど、今まで、屋上にきて、いつも泣いていましたよね?

まあ、正確に言うと、泣くのを我慢していたですよね?

俺、いつも屋上にいるんですけど、全然人が来ないんです。たまに、女の人が来て必ず、泣いているのを我慢しているか、

遠くの景色を悲しそうに見つめているんです」

それって・・・・、私?

「でも、今日は泣くのを我慢していたっぽいけど、泣いていたので、話かけようとしたんですけど、

やっぱりやめようとしたら、ドアが開いちゃって、バレました」

そうだったんだ。

しかも、今まで泣くのを我慢している所見られていたんだ。

「誰にも、そのこと言わない代わりに、俺と放課後一緒に過ごしてくれませんか?」

はあ?今なんて言った?

「絶対に嫌」

でも、断ったら、泣いているのを我慢してることみんなにバレるのは、嫌だ。

「分かった。期限付きでどう?」

「はい!」

夏樹の笑顔がぱぁっと変わった。

「期限、いつまで?」

「そうですね~、一か月はどうでしょう?」

一か月か~。長くない?

「せめて、二週間にしよっ」

焦って、声を荒げてしまった。

「じゃあ、間を取って三週間」

「分かった」

「でも、火曜日、木曜日は無理だから」

彼の笑顔は、一瞬でこわばった。

「何で、ですか?」

「何でって」

いや、普通に、火曜日と木曜日は、図書館で勉強するつもりだった。

「俺も一緒じゃだめですか?」

ダメというか、何もすることなくない?

「いや、やることないと思うよ?」

「それでも、いいんで」

どうしよう。

ていうか、勉強している時に近くにいられたら集中できないんだけど・・・。

「いや、それも困る」

「それでも、お願いします」

「いや」

即答したら、犬みたいなキラキラ輝いていた顔が、

しゅんとなった。

こいつ、感情がコロコロ変わる。

「分かりました。火曜日、木曜日以外の放課後は、空けといてください」

「分かった」

「じゃあ、今から何します?」

「今から!?」

いや、今もう五時半だよ⁉

今から、どこに行くっていうの!? 

どうせ、家には親いないからいいけど。

そっか、家には、誰もいないんだ。

そうだ、家には、誰もいない。

今日の夜ご飯なに食べよう。

お味噌汁と、ごはんと、コンビニのメンチカツ、

それで、いっか。

「何、ぼーとしているんですか?」

「わああ」

夏樹の顔がすぐそこにあった。

「あと、これから、放課後一緒にいてもらうからには、俺のことを『夏樹』って呼んでください。

いちいち、内川君、内川君ってめんどくさいじゃないですか。だから、俺も、『芽衣さん』って呼んでいいですか?」

芽衣さんって・・・・。

「いや、ただたんに、君が私のこと芽衣って呼びたいだけじゃないの?」

「バレちゃいました?」

子供みたいに笑っている夏樹。

高校生が,子供みたいに笑っている。

でも、夏樹がそう笑っているから、そこまで違和感がない。

「いいよ。別に好きなように呼んで」

「はい。芽衣先輩!」

芽衣先輩・・・。

そんなこと呼ばれたことがない。

「でも、今日は夜遅いから帰ろうよ」

「じゃあ、一緒に夜ご飯食べませんか?」

こいつ、また意味わからないことを言っている。

「夏樹のそれって天然?」

天然じゃないと夏樹が怖い。

「分かりません。でも、家に誰も居ないんですよね。

じゃあ、一緒に何か食べませんか?」

「夏樹、一様聞くけど、いつも何食べてるの?」

「えっと、カップラーメン?」

こいつ、本当に栄養取れているの?

「両親ともに、ほとんど出張です」

「そうなんだ・・。」

私と同じだ。

両親ともに、出張なんだ。

「ねえ、ちゃんと栄養取ってる?」

「さあ、そこんとこは分かりません」

絶対に栄養取れていない。

「私も、家に親いないから、私なんか作るから、家に来て」

これじゃ、絶対にいつか倒れる。

倒れてからじゃ、意味がない。

「いいんですか?」

「うん。いいよ。てか、これから家で一緒に食べよう」

「いいんですか」

だって、これ以上栄養取らなかったら、絶対に倒れる。倒れてからじゃ、遅いんだよ・・・。

お母さんも、仕事を休んで、ちゃんとご飯とか食べれば、よかったのに・・・。

なのに、出張ばっかいって、倒れて・・・。

倒れたのに、今でも、ごはん全然食べてないし。

しかも、『芽衣なら、大丈夫だよね』って言って

いつも出張に行っている。

確かに、私は、大丈夫だ。

絶対に泣かない。

「芽衣先輩?」

夏樹がのぞきこんできた。

見られる・・・!

すぐさま、手で顔を隠した。

「だ、大丈夫だから」

見られた?

見られていたらどうしよう・・・。

「早く、家に向かうよ」

見られてないよね?

「あ、はい!」

歩き出してもついてこなかった。


だから、あの言い方はきつかったかも・・・。

「今日は、何を作ってくれるんですか?」

「そうだな~」

本当に何を作ろうかな?

冷蔵庫に何が入っていたか覚えてない。

「やっぱ、先にスーパー行って何買うか決めてから、使う具材、買おうか」

「それ、いいですね」

何か買おうか。

今日は、夏樹がいるから、栄養をちゃんと食べれる物にがいいのかな。

「何、食べたい?」

「うーん?」

こいつ、今まで何を食べてきたんだ。

「じゃあ、野菜炒めでいい?」

「ああ、それは嫌です」

何で、野菜炒めが嫌なんだろう。

「じゃあ、オムライス」

「オムライス?」

何で、オムライス?

オムライスって、あのオムライス?

「なんで?」

「食べたいからです」

それ、理由になってない。

「分かった」

「やったー!」

オムライスなら、いつでも作ってあげるのに。

なんで、オムライスだけでこんなにも喜ぶのかな。

本当に子どもみたいに笑ってる。

高校生が、子供みたいに笑っている。

本当に、変な人だ。

「じゃあ、スーパーで、卵と、ケチャップは家にいるから、ニンジンと玉ねぎぐらいかな。

あっ、オムライスにチーズ入れる?それとも、卵にチーズ入れる?それとも、チーズ入れない?」

「えー。迷う」

真面目に考えてるし。

そんなの、適当に答えたらいいのに。

「じゃあ、両方にいれる」

「両方⁉」

「はい。両方です」

夏樹って、チーズ好きなのだろうか。

私の心を読んだのか、夏樹は、笑って答えた。

「チーズは、そこまで好きじゃありません。でも、芽衣先輩が一生懸命考えてくれていたから、

別に両方入れてもらった方がいいなと思って」

「ふーん」

そこまで一生懸命に考えてないかった気がするんだけど。

スーパーに着くまで、ずっと沈黙のままだった。

スーパーについてからは、沈黙はいつのまにかなくなっていた。

「ニンジンはあまり好きではないのであまり入れないでください」

「そんなん言っていると、大きくなんないよ」

「いいんです。これぐらいで」

「そう。でも、私の学年で私が一番小さいのに、それより、一つ下の男子が私より私より小さくていいの?」

「・・・・」

彼は、黙ってしまった。

そこまで、身長のこと気にしていたのかな。

「そこまで、気にしていたの?」

「・・・・」

夏樹は、黙ったままだった。

「早く、ニンジンと玉ねぎ買いに行くよ」

「・・・はい」

夏樹は、うつむいたまま答えた。

また、沈黙が流れた。

気まずい。

「ニンジンを買った、玉ねぎを買った、よし、家に行くよ」

「はい」

「てか、本当にオムライスでいいの?」

「いまさらですか?もう具材を買ったのに?」

「うん」

「はい」

なんでオムライスなんだろう?

他にも色々あるのに。

やっぱり、夏樹の考えていることは分からない。

疲れた。

今日は、色んなことがあったから疲れた。

でも、家帰っても、料理しなきゃいけない。

早く、オムライスを作るか。

そして、アイツが帰ったらゆっくりと『君の涙は、夕日みたいに輝いている』を読もう。

そんなことを考えながら歩いていたので、

いつのまにか、私の家の近くまで来ていた。

「あと少しで着くから」

「はい」

私の家は、一軒家で二階建てだ。

二階に私の部屋がある。

一階の部屋は、ほとんど一人でしかいたことしか覚えていない。

「ガチャ」

鍵を開けて、夏樹をリビングに案内する。

「ここに座って待っといて」

私は、彼の返事を聞かず、そのまま急いで、キッチンに向かった。