カーテンを閉めているのに朝日が漏れていた。

いつもなら、二度寝するけど今は眠気がまったくない。

パン屋で買って、食べながら学校に行くか。

昨日から、お父さんとお母さんは、出張で、海外に行っている。

小さいころから、お母さんたちはほとんど、家に居なかった。

だから,小さい時から一人で家の中で留守番していた。

お母さんとお父さんの口癖が『芽衣なら大丈夫でしょ』

いつだって、お母さんたちは口をそろえてそう言った。

だから、私は家では、優等生を演じ、学校では、明るい元気な子を演じた。

だから、本当の私を知っているのは、自分自身だけだった。

クローゼットから、制服を引きずり出して、さっさと着替えた。

そろそろ行かないと通学路に生徒がいっぱい通る。急がなきゃ。

「いってきます」

誰もいない家に響いていた。

 「いらっしゃい。芽衣ちゃん」

パン屋のおばちゃんだ。

私が、パンを買いにくる月曜日と火曜日と木曜日と土曜日に店にいる。

私も、おばちゃんがいないときは、あまりパン屋にいかない。

だから、おばさんと顔見知りになっていた。

「今日も、いつものやつだよね?」

「うん。お金」

いつも、メロンパンばっか買っているから、おばさんにも覚えられていた。何円なのかも、覚えていた。

220円。パンにしては、少し安い。なのに、ここのメロンパンはものすごくおいしい。

だから、いつもこのお店に寄ってから、パンを食べながら学校へ行っている。いつもは、二つ買っている。

でも、今日は、買う気にならなかった。急がなきゃ。

メロンパンの袋を開けて、メロンパンを食べながら学校に急いだ。

今日は、早めにでてきたから、図書室で本でも読もう。

やっと学校についた。

私が、通っている朱音高校は、七時からいつでも来てもいいのだ。

図書室には、誰も居なかった。

一人で家から持ってきた本を開く。

この本、『君の涙は、夕日みたいに輝いている』は、

高校生の夕香(ゆうか)は、自分を隠して学校生活を送っている。心の中で『死にたい』って思っていた。

でも、ある日同級生の魁兎(かいと)に『死にたい』って思っていることがバレてとしまう。

そして、その魁兎にも秘密があるらしい。

本の後ろのあらすじを読んでいた。

時計を見てみると、もう少しで他の生徒たちが、来る時間だ。

そろそろ教室に行かなきゃ。

図書室を出て、廊下をまっすぐ歩いていく。

あと少しで教室ってところだった。

「芽衣~。おはよー」

夕香の声が聞こえた。

夕香は、私の友達であの本の主人公と同じ名前なのだ。

でも、性格は全然違う。あの本の『夕香』は、おとなしくて、自分の意見を言うのが下手な子だ。

でも、私の友達の方の『夕香』は、

明るくて、クラスのムードメーカーである。そして、私の幼馴染である。

このクラスには女王様がいる。

「夕香~。おはよう!あっ、芽衣も居たんだ」

この子は、夕香と仲がすごくい『梨華(りか)』だ。

梨華は,夕香とは、仲がいいんだけど、私とは仲がいいのか未だによくわからない。

「おはよう。梨華」

「うん」

やっぱり、少し梨華は私に対して冷たい。

笑顔でいると何とか機嫌を取れる。

でも、今日は朝から私に当たりが少し強いから、

梨華は少し朝から不機嫌なのかな?

梨華が、教室に入りながら夕香に話していた。

「昨日さ~、彼氏と別れたんだよね。しかも、理由は好きな子ができたからだってさ~。

マジで、あいつウザすぎ~」

また、梨華の愚痴が始まった。

クラスの子たちも、声には出さないけど絶対に私と同じこと思っているはず・・・。

でも、みんな分かっている。クラスの絶対的女王様の梨華を怒らせてはならないことを。

だから、絶対に女王様の梨華に何も注意しずに、

そのまま話している。

今日も、始まった・・・。

今日もどうせ二人で話し合うのかな?

別に、嫌ではない。

二人の話を聞きながら愛想笑いをするのも嫌いではない。

でも、それは本当の私じゃないから、あの二人は本当の私を知らない。

夕香は、優しいからクラスの人に気を使って、

「もう少し音量下げようか」

「うん。でね、アイツさ、普通に私っていう

存在があるのになんで好きな子ができるの⁉意味が分かんないよ!」

夕香がさっきなだめたけど、結局また元々の音量になっている。

「そうだね」

夕香が梨華の頭を撫でている。

梨華がちっらとこっちを見た。

ヤバッ!

「うん。梨華は悪くないと思う」

私は、少し笑った感じで言った。

でも、梨華の反応が気になったから、全然本当の笑顔じゃなかったかもしれない。

自分じゃあ今どうゆう顔になっているか、分からない。

チャイムがなって、一時間目が始まって、お昼休みまでの五分休憩もこの話題で持ちきりだった。

「今日、パンを買ってないから先に食べといて」

「うん。いってら」

夕香は、笑顔で手を振ってくれた。

梨華も笑顔で手を振っているけど、目が笑っていない。

だから、急いでパンを買いにいった。

今日は、たまごのパンにしよう。

いつもは、たまごのパンは、すぐに売れ切れていた。

でも、今日はまだ十個ぐらいあった。

たまごのパンが置いてある箱のところにいるおばさんにお金を払って、早く教室に戻ろう。

「これください」

おばさんは、お金を受取ってたまごぱんをくれた。

いつもは、ゆっくり教室に戻っているけど今日は、廊下を早歩きで進む。

教室の、ドアの手前までついて教室に入ろうとした瞬間教室から、梨華の声が聞こえた。

「芽衣さあ~、絶対に彼氏と別れたの私のせいじゃないって思ってないよ」

「そうかな?芽衣は思っていると思うけど」

「絶対に思ってない顔していたの!」

「そう?」

「しかも、いつも私が話しているときニコニコしていて何考えているか分からないし、

なんか八方美人みたいな?感じするだけど!?」

「・・・・」

ついに夕香、黙り込んじゃった・・・。

梨華たちにそう思われていたんだ・・・。

夕香にも、思われていたんだ。

なんとなく分かってたのに。

なんで、こんなにもモヤモヤしているんだろう?

今、教室に戻っても笑顔でいられない気がする。

LINEで、梨華たちに連絡しておけば心配・・・、

まずまず,LINEしなくても心配しないか。

まあ、探されてもめんどくさいから、

一様夕香に連絡しとくか。

『ごめん。教室向かっている時に担任に捕まった。

前の時に使った資料を社会科資料室に片づけてって言われたから、

断れなくて本当にごめん 💦』

「ポン!」

送信した。

すぐに、既読になった。

『了解!梨華にも言っとくね!』

と一緒に笑顔で敬礼している猫のスタンプが送られていた。

これで、探してこないだろう。

てか、はじめから探そうとしないだろう。

だれも、いないところにいきたい。

この学校で誰もいないところっていえば・・・。

屋上の手前の階段!!

この学校は、屋上は解放しているときと、解放しないときに別れている。

今日は、解放されている日だ。

このまま、上にいけばいい。

「コツン、コツン、コツン」

足音が、階段に響いている。

屋上には、誰もいなかった。

屋上には、柵があって柵の向こうには、小さな丘がある。前に来た時は夕日がきれいだった。

『いつも私が話しているときニコニコしていて何考えているか分からないし、なんか八方美人みたいな?感じするだけど⁉』

梨華の声が頭の中で響いている。

八方美人・・・。

誰に対しても、いい人でいたい人。

そんな風に見えていたのかな・・・。

別に無理に笑っていたわけではない。

そして、梨華が彼氏と別れたのは、梨華のせいじゃないって本当に思ってる。

とにかく、話についていけなくて適当に笑っていたことが、八方美人なのかな?

ああああ、何もかも嫌になってきた。

こんな風に思われている自分を嫌いだけど、

自分の意見をちゃんと言えない自分が大嫌いっ!!

「うう、ふう、ふぅ、うっ、もうヤダッ!!」

悲しくて、でも涙は流したくなくて、

もう気持ちがゴチャゴチャになってきた。

だって、あんまり好きじゃなかった梨華に言われて傷つくとか、本当にヤダ。

『芽衣なら、大丈夫よね』

ふいに、お母さんの言葉が脳裏に浮かんだ。

そうだ、私は大丈夫だ。

わたしなら、大丈夫。 わたしなら、大丈夫。

わたしなら、大丈夫。 わたしなら、大丈夫。

心の中で、呪文みたいに唱える。

そうだよ、私は、大丈夫だ。私は、強いから。

それでも、気持ちはお腹の底からぐつぐつ湧いてきて

全然収まらなかった。

「ああああああああああああ!」

泣きたくない。こんなことで、泣きたくない。

私は、強い。だから、大丈夫。

心の中で、また唱えた。

「ううう、ふぅ、ふぅぅぅ、ああ」

無理だ。やっぱり気持ちがあふれ出してくる。

自分の気持ちが制御できない。

本当にヤダ。こんなこと考える自分が嫌い。

こんな自分を誰にも見られたくない。

絶対に、他の人には見せない。

「ガチャ」

ふいに、屋上のドアが開く音がした。

後ろに振り返るとそこには、知らない男の子がいた。

「誰?」

男の子は、質問しても目を見開いたままだった。

「・・・・」

本当は、ほんの数秒だったんだと思う、だけど私は,すごく長い沈黙に思えた。

「あの、大丈夫ですか?」

沈黙を破ったのは男の子だった。

やっと頭が動き出した。

「えっと・・・」

泣いていることを見られてた⁉
「大丈夫だよ」

とにかく、ニセの笑顔を男の子に見せた。

「ごめんね。なんでもないから」

笑顔で答えて見せた。

「それ、嘘ですよね」

「ッ・・・」

なんでわかるんだろう?

「俺、なんとなくわかるんです」

「本当は、大丈夫じゃないですよね?」


男の子は、まっすぐ見つめてきた。

男の子の瞳は、きれいな黒に少し青が混ざっているように見えた。

「嘘じゃないよ。本当に大丈夫だから」

精一杯に笑顔で言ってみた。

「大丈夫だから,もう行くね」

立ち上がって、屋上の扉に向かって,ノブに手をかけた瞬間、

空いている方に手首をつかまれた。

振り返ってみると、男の子がまた、あの瞳で、見つめていた。

「本当にですか?」

まっすぐとした男の子の瞳で見つめられていると、嘘がつきにくい・・・。

「うん。本当だよ」

目を見て、言えなかった。

でも、なんとか言えた。

「そうですか・・・」

男の子は、手首を掴んでいた手を離した。

「俺は、内川夏樹(うちだ なつき)といいます。一年A組です」

丁寧にそう告げた。

私より、一つ下か・・・。

「私は、山田芽衣(やまだ めい)。二年B組」

「明日も、屋上来ますか?」

男の子・夏樹は、聞いてきた。

「来た方がいい?」

「はい」

彼のまっすぐとした瞳が苦手かも・・・。

何もかも、見透かされそうで、怖いから。

「分かった。これたら、行く」

「わかりました。明日も待ってます」

私は、屋上のノブをひねって教室に向かった。