「じゃあ、気を付けて帰れよ~」

先生の掛け声と同時に教室から人が出ていく。

放課後友達と遊ぶひとたち、バイトに行く人たち、家に帰って勉強する人。

みんなやることは違う。

だけど、みんな教室から出ていく。

「深澤は帰らないの?」

もう少しだけ本を読んでいこうと椅子に座ると、後ろから岡崎くんの声がする。

「もう少しだけ本を読んでいく」

「へぇ~」

何か面白いものを見るようにこちらを見てくる。

この人って本当にクールって呼ばれてるんだよね?

どう見てもクールには見えないな、と一人そう考える。

「面白い?」

「知りません」

この答え方が冷たいと友達にも言われたがじゃあ、なんて言えばいいのだろうか?

「じゃあ、貸してよ」

「いやです」

これは図書館の本。

借りた本を貸すなんて駄目に決まっている。

「じゃあ、深澤が持っている本を貸してよ」

私が持っている本が図書館の本だとわかったのか、今度は自分が買った本を貸してと言ってくる。

もし、私が貸したとしてメリットはそこにあるのだろうか?

メリットどころかデメリットしかないだろう。

「じゃあ、ノべマキって知ってる?」

ノベマキ。

それは、色んな人が簡単に小説を書けるサイトだ。

「そこの『神崎深海(かんざき みうみ)』の作品読んでみてよ」

別に読まなくてもいいけど。

「いいよ」

読んでくれるんだ。

「その『神崎深海』の作品が面白いの?」

「別に面白くない」

面白いわけがない。

ただ、自分の願いを込めた作品が。

「でも、読んでみてよ。そして感想を聞かせてよ」

「まあ、いいよ」

感想、どんなのが聞けるんだろうか。

「じゃあ、それだけ」

私は、岡崎くんに背を向けて教室から出ていく。