「わー、本当に良い天気だな!」
中庭が見えると、陶山は幼い子供のように陽の下へ走っていく。
教室ではいつも落ち着いていて大人びている彼のこんな姿を見るのは少し久しぶりで、思わずクスッと笑ってしまった。
「木陰になっているし、ここのベンチに座ろうぜ!」
私が返事をする前に陶山は座ると、ベンチの左側をポンポンと叩く。
叩かれた場所に座ると、陶山は「あー、腹減った」とランチバッグを開けた。
「それで、どうしたの。珍しいじゃん、呼び出して相談するなんて」
中高一貫校に通う私たちは、偶然に偶然が重なって、中学1年生の時から高校2年生の今までずっと同じクラスだ。
だから、お互いのことはよく知っている。
特別仲が良いわけではないけれど、4年以上も同じクラスにいると、お互いのことは自然とわかってくるものだ。
だからたまにくだらないメッセージのやりとりもするし、はたまた真剣な相談もする。
でも、こうやって面と向かって相談を持ちかけられるのはかなり珍しい。
……それこそ、私の学校生活が一変するきっかけとなった、数ヶ月前のあの日以来だ。
「あー、うん。まあな」
陶山は「相談というか、ちょっと気分転換したくてさ」と苦笑いを浮かべた。
「気分転換?」
「そう。実はサッカー部内で揉め事が起きててさ。昼休みぐらい解放されたかったっていうか」
詳しく話を聞くと、部内では、主将と副主将を中心に、練習方針を巡って対立が起きているらしい。
「最初は意見の言い合いだったんだけど、いつの間にか2人とも喧嘩腰になってさ。今じゃ練習内容以外の些細なことを話すだけでもすっかりお互い喧嘩腰で、部内の空気が最悪なんだよ」
陶山は大きく息を吐いた。
「俺、サッカー部の奴らと飯食ってんじゃん? あいつらの中でも主将派と副主将派に別れ出して、ずっと言い合いしてんの。もうなんだか疲れちゃってよ」
「それはなかなか大変そうだねえ……」
「だろ? でもこんなぶっちゃけトーク、誰にでも出来るもんじゃないからさ。だから泉本に声をかけたわけ」
「そうだったんだ……。なんだかごめんね、最初、断っちゃって」
せっかく「話したい」と思って声をかけてくれたのに断ってしまい、今になってすごく申し訳なく思った。
「いいよ。結局こうやって聞いてくれたんだから」
その後も陶山は沢山部活の話をしてくれた。
きっとなんとなく、私のクラスでの状況をわかっているはずなのに、詮索もせず”普通に”接してくれる。
久しぶりに人と一緒に食べたお弁当は、いつもよりとても美味しく感じた。