今日から部長が一泊二日の出張に出かけて行った。
「お土産買って帰るわね」
「食べ物でお願いします!
それを使って夕飯作りたいです」
「お菓子以外ね。
了解!」
部長がいない一日だったけど、わたしはすでに部署内で定時に帰る女として定着したらしく、以前はよくあった定時直前の仕事の依頼もなく、時間どおりスムーズに会社を後にする。
さて、今日は何をしようかな。
久しぶりに平日夜に一人の時間ができて、少しわくわくしていた。
そうだ、図書館に行って本を借りよう。
それから、時間がかかるので普段は作らないコロッケでも作ろう。
部長の出張が分かっていたので、献立表では今日の分の献立を立てず、わたしの外食の可能性を含めてフリーにしていた。
あらかじめ予想していなかったメニューなので、必要なじゃがいもとひき肉の代金は自分の財布から出すことにする。
部長との同居前から、なるべく紙の本は持たないようにしていた。
理由は単純で、かさばるからだ。
紙の本の良さは十分に分かっている。
それでも終活を考えたとき、親族の誰か(もしかしたらわたしの知らない人かもしれない)がわたしの荷物を処分することを考えたら、やはり減らしておきたかった。
それまで持っていた本は古本屋に売ってもよかったが、偶然知った、本を寄贈することでその売却代金を寄付として犯罪被害者支援に役立てるというホンデリング・プロジェクトに参加してすべてを処分した。
そのときは、まさか自分が犯罪被害者になるとは思ってもみなかった。
その後、読みたい本があるときはできる限り図書館で借りた。
入荷や予約で読めるまでに多少時間はかかるが、お金もかからないし、一石二鳥だった。
それでも手元に欲しい本は、料理本などを除いて、電子書籍を購入していた。
久しぶりに行った図書館は、変わらず静かで、紙の匂いがしていて、何時間でもいたくなる。
ただコロッケを作りたいので、気持ち手早く本を選び、貸出手続きを済ませた。
そのままスーパーへ向かう。
何も考えず作っていたら、コロッケをいつもの調子で二人分作ってしまった。
別に一人分でよかったのに。
後で冷凍しておけばいいかと考え、気を取り直してひとりで夕飯を食べる。
そう言えば、部長の家に来てからコロッケは作ったことがなかった。
明日以降、部長に食べさせよう。
なんて感想をくれるかな。
揚げ物だけど、油っこくならないよう、熱々のじゃがいもを潰して、タネを作ったあとは一旦冷蔵庫で冷やし、揚げるときは2、3個ずつ揚げている。
きっと部長でも美味しく食べられるはずだ。
そんなことを考えながら夕食を食べ終わり、ビールとつまみを用意してテレビの前に座る。
でも気づいてしまった。
ああ、テレビって二人以上で観るためにあるんだ。
ひとりで観てもこんなに味気ないものなんだ。
しばらくテレビのある生活を送ってこなかったから、部長と一緒に生活するまで知らなかった。
普段は夕飯を食べた後、テレビを二人で観ながら、ああだこうだと意見を言い合っていた。
サンちゃんが横にやってきたので、あごの下を撫でてやる。
にゃーと鳴きながら寄ってきたシイちゃんの頭も撫でてやった。
いつもはわたしを警戒しているイッちゃんも、テレビ台の近くでわたしを心配そうにじっと見つめている。
部長の存在が存外自分の中で大きくなっていたことにも同時に気づいてしまった。
なぜだろう。
もうひとり暮らしに戻れない気がして、急に自分のことが怖くなった。
「お土産買って帰るわね」
「食べ物でお願いします!
それを使って夕飯作りたいです」
「お菓子以外ね。
了解!」
部長がいない一日だったけど、わたしはすでに部署内で定時に帰る女として定着したらしく、以前はよくあった定時直前の仕事の依頼もなく、時間どおりスムーズに会社を後にする。
さて、今日は何をしようかな。
久しぶりに平日夜に一人の時間ができて、少しわくわくしていた。
そうだ、図書館に行って本を借りよう。
それから、時間がかかるので普段は作らないコロッケでも作ろう。
部長の出張が分かっていたので、献立表では今日の分の献立を立てず、わたしの外食の可能性を含めてフリーにしていた。
あらかじめ予想していなかったメニューなので、必要なじゃがいもとひき肉の代金は自分の財布から出すことにする。
部長との同居前から、なるべく紙の本は持たないようにしていた。
理由は単純で、かさばるからだ。
紙の本の良さは十分に分かっている。
それでも終活を考えたとき、親族の誰か(もしかしたらわたしの知らない人かもしれない)がわたしの荷物を処分することを考えたら、やはり減らしておきたかった。
それまで持っていた本は古本屋に売ってもよかったが、偶然知った、本を寄贈することでその売却代金を寄付として犯罪被害者支援に役立てるというホンデリング・プロジェクトに参加してすべてを処分した。
そのときは、まさか自分が犯罪被害者になるとは思ってもみなかった。
その後、読みたい本があるときはできる限り図書館で借りた。
入荷や予約で読めるまでに多少時間はかかるが、お金もかからないし、一石二鳥だった。
それでも手元に欲しい本は、料理本などを除いて、電子書籍を購入していた。
久しぶりに行った図書館は、変わらず静かで、紙の匂いがしていて、何時間でもいたくなる。
ただコロッケを作りたいので、気持ち手早く本を選び、貸出手続きを済ませた。
そのままスーパーへ向かう。
何も考えず作っていたら、コロッケをいつもの調子で二人分作ってしまった。
別に一人分でよかったのに。
後で冷凍しておけばいいかと考え、気を取り直してひとりで夕飯を食べる。
そう言えば、部長の家に来てからコロッケは作ったことがなかった。
明日以降、部長に食べさせよう。
なんて感想をくれるかな。
揚げ物だけど、油っこくならないよう、熱々のじゃがいもを潰して、タネを作ったあとは一旦冷蔵庫で冷やし、揚げるときは2、3個ずつ揚げている。
きっと部長でも美味しく食べられるはずだ。
そんなことを考えながら夕食を食べ終わり、ビールとつまみを用意してテレビの前に座る。
でも気づいてしまった。
ああ、テレビって二人以上で観るためにあるんだ。
ひとりで観てもこんなに味気ないものなんだ。
しばらくテレビのある生活を送ってこなかったから、部長と一緒に生活するまで知らなかった。
普段は夕飯を食べた後、テレビを二人で観ながら、ああだこうだと意見を言い合っていた。
サンちゃんが横にやってきたので、あごの下を撫でてやる。
にゃーと鳴きながら寄ってきたシイちゃんの頭も撫でてやった。
いつもはわたしを警戒しているイッちゃんも、テレビ台の近くでわたしを心配そうにじっと見つめている。
部長の存在が存外自分の中で大きくなっていたことにも同時に気づいてしまった。
なぜだろう。
もうひとり暮らしに戻れない気がして、急に自分のことが怖くなった。