「そうだ、白川さん、今週の土曜日空いてる?」

 夕飯のとき、ビールを飲んでいる部長に予定を尋ねられた。
「はい、空いていますが」
「よし、じゃあ梨狩りに行こう」
「うわー、楽しみです!」

 居候するまで部長とはちょいちょい飲みに行って、何件か店を回って飲みすぎるのがお決まりだったのだが、部長との共同生活が始まってからは、毎日夕飯時や夕飯後に一杯前後を晩酌することで全体の飲酒量が制限できていた。
 それは部長も同じだったらしい。

「それどころか、週末しか自炊できてなかったから、平日毎日外に食べ飲みに行っていた分が、白川さんが来てからおつまみまで含めて節約料理を作るから全部家の中で完結するし、以前より食費の出費が格段に減って、何なら体重まで減った」
「なんと!
 ところで、以前の出費はどのくらいだったんです……?」
「うーん、どんぶり勘定なんだけど、体感は倍、いや、3倍以上、ん、4倍か……?」
「ひぇー」

 部長の健康にまで貢献できているのは知らなかったので、大変うれしい。
 部長には、これまで以上に会社のためにがんばってもらいたいから。


 3日後。
 部長の運転する車で梨狩りに向かった。
「60分の時間制限みたい。
 さて、どう攻略する?」
「そうですね、部長が梨を取ってきてください。
 わたしが剥きます。
 事前に早く剥ける方法を調べてきました」
「さすが!
 よし、それで行こう」

 梨園に入り、必要な道具を受け取る。
 目の前には袋のかけられた梨たちがぶら下がった果樹が広がる。

 わたしはベンチに座って部長を待つ。
 その間に、用意してきた必殺道具を取り出した。
 それは、大きめスプーン!

「はい、まずは一個」
 部長が持って来た梨の袋を素早く剥ぎ取り、わたしは梨園から借りたフルーツナイフで梨を縦半分に切る。
 そして、スプーンで種をくり抜き、そのまま八つのくし切りにして、スッと皮を剥いた。
 あー楽!
 この剥き方最高だー!

「おー、早い!」
 部長が感心して声を上げ、わたしの手渡した梨を口に入れた。
 しゃくり。
「美味しい!」

 わたしも続けて梨を口に運ぶ。
 しゃくしゃく。
「うん、酸味が程よくあるバランスのとれた梨ですねー!
 やっぱり美味しいなあ」

「白川さん、梨に詳しいの?」
「単に好きなだけです。
 豊水は赤梨ですけど、青梨の二十世紀梨とかも好きですよ。
 赤梨ほど甘味が強くなくて、あっさりさっぱりですごく食べやすいんです」
「そうなのね。
 私、青梨は食べたことないわ」

 わたしたちはその調子で梨を食べ続け、胃袋の限界が来たところで60分を待たずに梨園を出た。
 持ち帰るための梨を買って帰る。

「何を作りましょうか?
 コンポート作って、梨パイ、フルーツゼリー、ロールケーキ、コンポート液と果肉で梨ソーダもいいですね」
 わたしが梨の入ったカゴを抱えて夢見心地でそう言うと、
「全部作って!」
 完璧な回答が部長から返ってきて、思わず吹き出した。