家事全般を担当することになり、なるべく定時で帰らせてもらっている。
 契約社員なので業務自体は正社員と大差ないからいいけれど、残業しなくてもいいように業務をさばいた日、定時間際に別の業務を割り振られることには正直納得していなかった。
 そこに部長が細かめに目を光らせてくれ、調整してくれるのでありがたいことこの上ない。
 もちろん、定時で帰らないとスーパーをはしごすることが難しくなるという理由は、すでに部長に伝達済みだ。

 二人分の家事は気を遣うことも作業も多いけど、仕事をするよりはずっと好きだ。
 座りっぱなしより、身体を動かせる方が健康的とも思う。
 音楽をイヤホンで聞きながらやってしまえば、どんな家事も楽しくなってしまう。
 特に掃除はやりすぎる。

 部長の家は乾燥機付きドラム型洗濯機(しかも洗剤も自動投入)なので、普通の縦型洗濯機を使っていたわたしにとっては洗濯がとても楽になった。
 わたしの洋服は冬用コート以外の全部が乾燥までかけられるが、部長の服は高価なものも多く、クリーニングに出したりおしゃれ着洗いが必要だったり手洗いだったりするものがある。
 ひとり暮らしでは1週間くらい洗濯物をためられたが、二人暮らしはすぐに洗濯物がたまるので、二日に一回は洗濯をすることにした。
 おしゃれ着洗いのものをまず洗濯機にかけ、その後に乾燥までかけられるものを洗濯機に放り込んで洗濯開始ボタンを押してから、同時に手洗いをする。
 それぞれの服をどのように洗濯するべき(クリーニングに出すべき)なのかについては、最初だけひとつひとつ部長に確認して、タブレットで写真付きのメモを取っておき、二回目以降は聞かなくても対応できるようにした。

 タブレットは、部長の家に来てから、保険金で購入したものだ。
 ノートパソコンが盗まれてから、表計算ソフトでの家計管理などスマホではできない作業をするのにやはり必要で、かと言って今回の盗難の経験から、普段も持ち運べるタブレットを購入することに決めた。
 タッチペンを追加すれば、献立表も手書きのままデータで作れるようになり、むしろ以前より便利になった。
 ちなみにパソコン内のデータは、もともと防災対策としてパソコン本体に保存せずにクラウドに全部保存していたので何とかなった。
 はからずも盗難という災害のうちのひとつに功を奏してしまい、いいことではあったけど何とも複雑な気持ちだ。

 会社ではわたしと部長が直接組んで仕事をすることはないけど、独身女性二人暮らしでの部長とのコンビは、本当にやりやすい。
 部長はこれまでの自分のやり方などもあるだろうに、ほとんどわたしに一任してくれている。
 家事が楽しいのはそのせいだった。

 部長に対する感謝から、仕事のモチベーションも上がった。
 限られた時間で、もっと効率的に、何をどうやったらいいかを先の先まで見通しながら考えてするようになった。
 自然と集中力が高まり、自分の仕事も楽になっていく。

 40歳を超えてもまだまだ成長ってできるんだ。
 わたしにもまだやれることがある。

「白川さーん、定時!
 さっさと帰りなさーい」
「はい、お先に失礼します!
 お疲れ様でした」

 わたしはスーパーに向かって会社を飛び出した。